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北欧の名建築家、デザイナーの知られざる素顔と歴史を映し出す「アアルト」監督インタビュー

2023年10月27日 09:00

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ビルピ・スータリ監督
ビルピ・スータリ監督
写真:マチェイ・コモロフスキ

フィンランド出身の世界的建築家・デザイナーのアルバ・アアルトの人生と作品にスポットを当てたドキュメンタリー「アアルト」が公開中だ。独創的なスタイルでアアルトの知られざる素顔を映し出した、ビルピ・スータリ監督のインタビューを映画.comが入手した。

画像6(C)FI 2020 - Euphoria Film

不朽の名作として愛され続ける「スツール60」、アイコン的アイテムである花器「アアルトベース」、自然との調和が見事な「ルイ・カレ邸」など、優れたデザインの家具・食器や数々の名建築を手がけたアルバ・アアルト。同じく建築家であった妻アイノとともに物を創造していく過程とその人生の軌跡を、アイノと交わした手紙の数々や、同世代の建築家、友人たちの証言通して映し出す。

画像5(C)FI 2020 - Euphoria Film
――本作製作のきっかけ、アルヴァとアイノのことを描いた道のりを教えてください。

ある意味で子ども時代からこの映画の準備をしていた気がします。私はロヴァニエミというフィンランドのほとんど北極圏・ラップランドの出身で、幼いころから様々なアアルトの建築の中で過ごしていました。冬になるととても寒いエリアで、私は音楽のレッスンを受けていたのですが、そこに行く前に過ごせる暖かいところ、それがアアルトが作った図書館でした。1965年に完成した場所で、アアルトが作った革の椅子でサンドイッチを食べながら、その図書館でアアルトの美しい真鍮のランプの下で読んで時間を過ごしました。子どもながらにアアルトの建物には何か特別な魅力があると感じていたのです。

その当時、70年代の私の家や他の家は慎ましい暮らしをしている人が多く、あまり贅沢なものに触れていなかったのですが、図書館に行くと贅沢な気がしました。非常に贅沢な場所ですが、それはすべての人に提供されているものでした。これはある種のフィンランドのイデオロギーだと思いますが、福祉国家であるということです。公共の場所をとても大事にして、公共の場所はみんなが使える場所だから気持ちが高揚するような物を作ろうと考えられています。

画像2写真:マチェイ・コモロフスキ

ですから、図書館も私たちの物であるという意識、私も所有者の一人であるという意識がありました。またそれは政治的な判断でもあります。フィンランドという国は政府が図書館に投資していたのです。ですからフィンランド中にたくさんの美しい図書館があります。それは公共の場所で、みんなが何の差もなく誰でも求めれば知識を共有できるといったことだと思います。そういった私の思い出が核となって、映画を作ることになったわけです。

もう一つの理由は、自分を教育したいということもありました。19世紀、20世紀の文化的な歴史を学びたいと思いました。アアルトのストーリーを学んで行くことでその大きな文化的な人物について学べると思ったのです。例えばコルビジェや、バウハウス、アメリカですとロックフェラーですとか、モダニストのフランク・ロイド・ライトといったような人たちについて勉強しつつそれを映画にするということで、勉強する言い訳もできたし、その勉強した結果をみんなで分かち合うことができるというのが私の中の内的な動機の一つでした。

フィンランドでは誰でもひとつアアルトの家具を持っています。そして、タクシーの運転手の人だったり、誰でもがアアルトの作品について批判したりするわけです(笑)。例えばフィンランディアホール、実は大理石が崩れている、雨漏りするとか、あの椅子は快適ではないとか、批判する人がいますよね。でも批判してもすごく誇りに思っているのです。その一方で、昔ながらのアアルトファンはアアルトについて絶対に悪いことは言ってはいけないという風潮があります。アアルトの映画を作るというと、いろんな人が様々なアドバイスをしてくるんです。私が若い映像作家であればそういう言葉に影響されていたと思いますが、今であれば自分なりの自信があるので、しっかりリサーチをして、自分なりの意見を持ってアアルトを語ることができます。

また、それなりのキャリアのある映画作家であるということは、アアルト一族からの信頼を得るためにも必要でした。そのお陰でアアルト家族のアーカイブの使用許可を頂きました。それで、このプロジェクトはうまくいくな!と思えました。私はこの映画をアカデミックな調査研究発表のようにはしたくなかったのです。私が子どもの頃に図書館で感じた暖かさとか、愛情とか、遊び心が現れている映画にしたかったのです。そのためのツールとして、家族で撮った写真、8ミリフィルム、アルヴァとアイノの間で交わされたラブレターが必要だったわけです。

画像4写真:マチェイ・コモロフスキ

また、私の年齢になったからこそ、家族にも信頼されました。ある程度の結論を出すときに、簡単に結論を出さないということがあると思います。例えば結婚について、いかにそれが複雑であるか、外からは簡単に結論づけることができないという年齢になってくるのです。その人生、人間関係というのは簡単に白黒つけられるものではなくて、その間にグラデーションに満ちたものであるとわかる年齢になったので、映画の中で彼らの関係について、こういう結論であると決めつけるわけでなく、いろいろな側面もあったという風に描いています。

リサーチをしていく中で明白になったことは、天才は一人で作られるわけではない、ということです。アルヴァ一人が天才だったわけではなく、その陰にアイノという天才がいたからこそ「アアルト」ができあがったことに気がつきました。若い建築家として二人一緒にモダニズムを発見し、二人一緒にアアルトデザインと言われるものの基礎を作って行った。あらゆるものは発展していく中で、確かな土台を二人で一緒に作りあげて行ったということを学んで行きました。アイノというアルヴァと同等のパートナー関係に光をあてることが必要だと思いましたし、エリッサについても同様に光をあてるべきだと考えました。

画像7(C)FI 2020 - Euphoria Film

100年以上前に、女性が建築家として活躍するということは大変でした。家の外に出て仕事をする、そして同等のパートナーとして海外で色々な物を展示するという。アイノの場合はアルテックのアーティスティックディレクターであり、また母でもあるという、たくさんのマルチな役割をこなしていたわけです。それと同時に、彼女は難しい人物の妻であったわけです。アルヴァという人はチャーミングですが自己中心的で常に注目を浴びていたいという、一緒に住むには大変な人です。そういったアルヴァはアイノのことをとても信頼していました。また彼は彼女の美意識を信頼していたので、最初に作った物をまずはアイノに見せていたようです。

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