【「シック・オブ・マイセルフ」評論】理想の自分 を作るために 生身の自分 を壊す すべてが裏目に出るシニカルさ
2023年10月15日 19:00
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製作会社は「わたしは最悪。」と同じ。2作とも、生き方の定まらない女性を主人公にした点が共通している。ただし、「わたしは最悪。」の主人公が、やりたいことやなりたいものがコロコロ変わるタイプなのに対し、「シック・オブ・マイセルフ」の主人公シグネ(クリスティン・クヤトゥ・ソープ)には、やりたいことやなりたいものが何もない。あるのは、愛されたい、注目されたいという願望のみ。そんな主体性ゼロの彼女が、怪我人の返り血を浴びて恋人に優しくされたことをきっかけに、病人になって世界の中心に立つことを思い立つ。
人間は注目されるために美しくあろうとする性を持つ生物だが、シグネの場合は、顔面崩壊の奇病を装うという真逆の方向に向かう。ルッキズムを全否定するような設定が、この映画のコメディたる所以だ。顔の腫れが違法薬物の副作用であることがバレないように、シグネが病院の検査から逃げ回るエピソードはドタバタのギャグそのもの。だが、話はだんだん笑えない方向に向かう。
好きなものを食べに行ってSNSに上げるのではなく、SNSのウケを狙って好きでもないものを食べに行く。私たちもやりがちな本末転倒だが、こんなふうに他人の目を基準に生き始めると、セーブの限界が見えなくなる。ウケてもウケなくても「もっともっと」となりがちだ。シグネの場合もしかり。服薬をやめる選択肢をなくした彼女は、正真正銘の病人になるまで自己破壊をエスカレートさせていく。生きた証を残そうとして死に近づく。理想の自分を作ろうとして生身の自分を壊す。すべてが裏目に出るシニカルさが、この映画の身上だ。
最初から最後まで自分を見失ったまま暴走するシグネは、同情を買う余地のないかわいそうなキャラクターだ。しかし、不思議と憎めないのは、超がつくほどポジティブな人間だからだろう。物事が思い通りにいかなくなったとき、シグネの脳内には、事態が好転していく脳天気な妄想が広がる。それを巧みに映像化したところが、軽妙な味の決め手。劇後半、多様性のファッション化を風刺したCM撮影の場面も絶妙におかしい。ここでは監督のクリストファー・ボルグリが演出家を演じている。
(C) Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Vast 2022
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