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ハワイ・マウイ島の山火事を受けて――再建を祈りつつ、愛してやまない“思い出の地”を語る【ハリウッドコラムvol.340】

2023年9月10日 08:30

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ハワイ・マウイ島
ハワイ・マウイ島
Photo by Danny Lehman/Getty Images

ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。

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今年4月、ぼくの家族はハワイ・マウイ島のラハイナにいた。ラハイナはもともとはハワイ王国の首都があった場所で、かつては捕鯨やサトウキビの精糖業で栄えた街だ。いまは古い街並みを生かしたオールドハワイを体験できる観光名所となっている。

マウイ滞在中に家族でラハイナに立ち寄るときは、パイア・フィッシュマーケットでメバチマグロのハンバーガーとフライドポテトを注文するのがお決まりのパターンだった。だが、物価高で外食は避けたかったし、この日は土産物探しが目的だった。観光客で溢れたフロントストリートではめぼしい物が見つからず、無難なホノルル・クッキー・カンパニーに落ち着いた。子供たちはサンプルのクッキーをあれこれつまんで満足そうだった。

一方で、彼らはラハイナのシンボルであるバニヤン・ツリーに興味を示さなかった。以前は自由に木登りできたのに、「No Climb, No Swing(登ってはいけません。ゆすってはいけません)」という立て看板が出来ていた。1897年に植樹された歴史的大木も、彼らにとっては巨大なジャングルジムでしかない。

バニヤン・ツリー
バニヤン・ツリー
バニヤン・ツリー
バニヤン・ツリー

このときのラハイナ滞在は1時間程度で、振り返ってみても、取るに足らないありきたりの観光だった。

だが、8月発生した山火事によってかけがえのないものに変わった。あのときぼくらが訪れたラハイナが焼け野原となってしまったからだ。100人以上が命を落とし、2000棟以上の家屋が消失した。アメリカで起きた火災として過去100年で最悪の事態だという。

今回は再建を祈りつつ、ぼくが愛してやまないマウイ島について書こうと思う。

ハワイというと、たいていの日本人がイメージするのはワイキキビーチのあるオアフ島で、かつてのぼくもそうだった。ワイキキを離れて、ハナウマ湾やラニカイビーチにはじめて行ったときは、ひどく感動したものだ。

だが、ハワイ諸島には100以上もの島がある。オアフ島をひととおりクリアすると、もっと素敵な場所があるに違いない、と、ネイバーアイランドと呼ばれる他島にも足を運ぶようになった。アメリカ本土からはオアフ島を含む主要4島に直行便が飛んでいる。そこで、マイルが貯まるたびに探索に出て行った。いまから10年ほど前のことだ。

理想の地はあっという間に見つかった。オアフ島のつぎに訪問したマウイ島に感激し、その後、他島を訪ねてもベストワンの地位は揺るいでいない。

ラハイナ
ラハイナ

マウイ島の魅力は、ハワイの大自然と現代生活の利便性がいい塩梅で両立していることだと思っている。いくら見事な絶景でも、そこまでの道路が舗装されていなければ、トラブルに遭うリスクがぐっと高くなる。

その一方、たとえばオアフ島のダイヤモンドヘッド山頂のように、アクセスが簡単でも常に混雑しているような場所で感動に浸るのは難しい。ぼくにとってオアフ島は都会過ぎで、カウアイ島は田舎過ぎるのだ。買い出しからネット環境、外食までいつも通りの快適な生活を維持しつつ、楽園気分を満喫できることが、サバイバル能力に劣る自分には重要なのだ。なお、マウイ島のビーチも休日になると混雑するが、ワイキキのように日本語が聞こえてくることは滅多にないので、ムードを壊されることもない。

オプラ・ウィンフリーのようなセレブリティや、ジェフ・ベゾスやピーター・ティールといったテック業界の大物がマウイ島に別荘を構えているのも、きっと似た理由からだ。

マウイ島に慣れないころは、ハレアカラ山の日の出を見に行ったり、ハナへのくねくね道をドライブしたりと、観光ガイドに掲載されていることをひととおりこなした。だが、いつしか定宿のあるカアナパリでのんびり過ごすことが最大の贅沢であることを悟った。カアナパリとはマウイ島西部にあるリゾート地だ。

カアナパリ
カアナパリ

カフルイ空港でレンタカーを借りたら、近くのコストコで必需品を買い占める。その後はカアナパリにひたすら籠もるのだ。

目が醒めると、砂浜沿いのビーチウォークを軽くジョギングする。シャワーを浴びたあとは、ラナイのテーブルで仕事をする。午後はプールサイドやビーチサイドで子守りをしながら読書をする。日が暮れたら、夜風を感じながらラナイでビールを飲む。まるでFIREを達成した富豪みたいな生活だが、ぼくに許されるのは1年のうちほんの数日だ。マウイ島を離れれば、いつものせわしない現実が待っている。

実際、マウイでハワイの空気に触れているだけで、幸せな気分になる。そして、いったん離れると、次が待ち遠しくなる。霊感などはまるでないが、マウイ島全体がパワースポットのようなものなのだ。

もっとも、何もしなくても腹は減る。マウイ島のレストランはオアフ島のそれにはとても及ばないので、自炊が中心になる(だから、キッチン付きのコンドミニアムに泊まることにしている)。炊飯器でご飯を炊いて、スーパーで購入した新鮮なポケを載せれば立派なランチが出来上がる。

そして、カアナパリからほんの数分車でドライブしたところに、ラハイナがある。ここにはフードランドという大きなスーパーがあり、スターバックスも数軒ある。フードランドでは日替わりで異なるポケや惣菜を買い、ついでにスタバで仕事をしていた。ラハイナはぼくにとって生活の拠点だった。

画像6Photo by Justin Sullivan/Getty Images

そんな、ラハイナが被災した。ニュース映像やYouTubeにアップされた動画には目を覆いたくなる。きらきらしていた街並みが、まるで戦場になっている。

先日、オプラ・ウィンフリードウェイン・ジョンソンが被災した人に月1200ドルを支給する「ピープルズ・ファンド・オブ・マウイ」という基金を立ちあげた。その行動の早さに驚くとともに、深く感謝している。

ぼくに何ができるのか? あいにく、マウイ島のことを紹介することくらいしか思いつかなかった。今回の山火事で、マウイ島全土が閉鎖されたと思っている人が少なくない。たしかに、ラハイナより北にあるカアナパリやカプルアなどの西部のリゾートは予約を受け付けていない。被災者の避難場所になっているからだ。

だが、マウイ島は南部にもワイレアという高級リゾートがあり、こちらは通常営業中だ。現地で暮らす人の多くが観光業に携わっているから、マウイ島を訪問することが貢献になるはず。ハワイ旅行を考えている人がいたら、マウイ島への訪問も検討してくれたら嬉しい。

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