実写「ONE PIECE」監督に直撃取材 尾田栄一郎の“撮り直し”に応えた理由、麦わら帽子を渡すシーンへの思いを明かす

2023年9月8日 08:00


実写版「ONE PIECE」
実写版「ONE PIECE」

尾田栄一郎氏による人気コミックを、Netflixが全8話のドラマシリーズとして製作した実写版「ONE PIECE」(ワンピース)が世界各国で話題を呼んでいる。

Netflixで配信がスタートしたのは、8月31日。9月3日までの間に視聴回数1850万回を記録し、Netflix週間グローバルTOP10(英語シリーズ/集計期間:8月28~9月3日)で1位に輝いている。また、世界46カ国で1位、93カ国でトップ10入りを果たした。

同シリーズでは「エージェント・オブ・シールド」「Marvel ルーク・ケイジ」のマット・オーウェンズ、「LOST」「HELIX 黒い遺伝子」のスティーブン・マエダが、脚本&ショーランナー&エグゼクティブ・プロデューサーを担当。さらに原作者・尾田氏が製作総指揮としても加わり、企画段階からキャスティングや詳細な演出にも関与している。「ONE PIECE」の実写化は、当初かなり困難なものになるとみなされてきたが、漫画のエッセンスをしっかり残しながらも、実写に合わせた見どころを抽出した作品として日の目を見ることになった。

1話あたりの制作費は、なんと約26億円。「ゲーム・オブ・スローンズ」(HBO)、「ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪」に匹敵するほどの制作費がつぎ込まれているのだ。原作漫画は、既に100巻以上にわたる長期の連載シリーズだ(既刊106巻)。今回のNetflix実写版は、原作漫画の第1巻から、「アーロンパーク編」(第11巻)まで描かれている。つまり、単純計算すると、シーズン10まで続けられるようなポテンシャルを秘めている。Netflixは、来年最終シーズンを迎える「ストレンジャー・シングス 未知の世界」以外にも強力な実写シリーズを得ることになるのかもしれない。

尾田氏が大切に積み上げてきた世界観を、見事に映像化した2人の監督がいる。エマ・サリバンとマーク・ジョブストだ。本記事では、彼らへの単独インタビューをお届けしよう。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)。


【エマ・サリバン/プロフィール】

大学卒業後、短編「アフター・トゥモロー」を制作。同作は、2009年のカンヌ国際映画祭で短編部門のパルムドールにノミネートされている。その後、TVシリーズ「ドクター・フー」「ザ・ウォッチ」などを手がけてきた。

【マーク・ジョブスト/プロフィール】

大学卒業後、俳優&監督の両面で活躍。TVシリーズ「Marvel デアデビル」「Marvel パニッシャー」「ウィッチャー」などを手がけてきた。


●実写化への懐疑的な声に、どう応じたのか? 「キャラクターを理解し、彼らに恋をしてください」と言いたかった

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――「ONE PIECE」の実写化が発表された際、多くの人が懐疑的な態度を示していました。ジョブスト監督は、プロデューサーのマット・オーウェンズ、スティーブン・マエダと事前にどのような話をしていましたか?

ジョブスト監督:まずは『なぜ実写化するのか?』という疑問を提起することが重要でした。原作漫画は社会現象を巻き起こし、アニメも大成功を収めています。「では、実写版を制作することで何か追加できることがあるのか?」と考えたんです。実写版を制作するためには、理由が必要です。それがなければ、既存のものを複製するだけになってしまいますから。

――では“実写化”に対して、どのように対してアプローチをしましたか?

ジョブスト監督:漫画やアニメの中には必ずしも存在しない、この作品にもたらすことのできる“特別な何か”を持つことを考えました。それは「感情的な生活」「(過去の)背景」「人間であることの弱さ」「多才で熱烈、動物的な人間を描くこと」でした。二次元の世界では何にでもなれますし、何でも描くことができます。それを三次元の世界に持ち込み、キャラクターを具現化する。私たちが何よりも望んだのは、この挑戦がファンを興奮させ、情報を提供し、アニメや漫画だけでなく、実写化への愛に新たな理解をもたらすことでした。彼らの理解が、実写版をどう見るかを左右します。我々は『この作品を見て、キャラクターを理解し、彼らに恋をしてください」と言いたかったんです。


尾田栄一郎が“撮り直し”を依頼したシーンがあった

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――サリバン監督の息子さんは「ONE PIECE」の大ファンだそうですね。そして、あなたの甥っ子たちまでも漫画を読んでいたと。そのように「ONE PIECE」がどれだけ愛されているのかを知ったうえで、実写化に携わることになりました。本作には、原作者の尾田栄一郎さんを含め、10名近くも脚本家がクレジットされています。映像化するうえで、脚本家たちとどのような会話をしましたか?

サリバン監督:残念ながら、尾田栄一郎さんに直接会うことはできませんでした。ショーランナーのマットとスティーブンが、尾田さんに会って話をし、彼らが明確なビジョンを我々に届けてくれました。

――具体的なリクエストはありましたか?

サリバン監督:例えば、私が撮影を担当した「シモツキ村」のシーンです。ここでは、子ども時代のゾロと霜月くいなが喧嘩をするのですが、当初は剣道の防具(=面)をつけていました。尾田さんは、その光景を見て“撮り直し”を依頼してきました。そこから我々は、南アフリカに戻り、尾田さんが納得するまで撮り直すことにしたんです。「ONE PIECE」は、尾田さんにとってのライフワークです。とても重要なことだと思いました。


●ルフィ役のイニャキ・ゴドイについて「すっかりルフィになりきっていた」

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――ルフィを演じたイニャキ・ゴドイについても、お話をお聞かせください。

ジョブスト監督 : 私がゴドイと最初に仕事をしたのは、彼が17歳の時です。あんなに注意深く人の話を聞く17歳の青年は、それまで会ったことがありませんでした。彼は今19歳(※取材時の年齢)です。ゴドイが特別なのは、クレイジーなことをやっても、ちゃんと耳を傾けるからだと思っています。

サリバン監督:イニャキは、尋常じゃないほど、すっかりルフィになりきっていました。彼はルフィのように前向きで、とても熱意に溢れているんです。


新田真剣佑のアクションは素晴らしい技術「戦闘シーンの撮影日は“とても喜んでいた”」

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――サリバン監督は、シロップ村のお嬢様・カヤの屋敷内でのシーンを担当されています。新田真剣佑のアクションパートはいかがでしたか?

サリバン監督:本作には、刀の扱いに長けた素晴らしい格闘の振付師がいました。スタント・コーディネイターのフランツ・スピルハウス、ダレル・マクリーン。そして、刀のスペシャリストである川本耕史です。彼の刀さばきは、まるで花火を見ているようで、刀のコントロールとスキルが素晴らしいだけではなく、人間性も良かった。新田真剣佑は、どんな戦闘シーンもこなしていました。全ての戦闘シーンを自分自身でやることが好きで、戦闘シーンがある日はとても喜んでいました。まるで「格好良く走り回って戦うことほど、好きなものはない」と思えるほど。彼の素晴らしい技術を目の当たりにしました。

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――ジョブスト監督は、第1、2話を担当されています。アクションシークエンスのこだわりについて教えてください。

ジョブスト監督:このシリーズにおけるアクション・シーンは非常に重要でしたし、それはキャスティングにも反映されていました。私は流れるような大きな動きでアクションを撮影するのが好きなんです。必要以上にカット割りに頼ったり、スタントダブルを入れたりはしません。これは、私が「ウィッチャー」のパイロット版で殺陣を撮影した時に学んだことのひとつでした。「ONE PIECE」ではもっと違うスタイルが必要だと感じていました。例えば「カンフー・ハッスル」「グリーン・デスティニー」のようなアプローチを試みました。


●カヤの屋敷&ゴーイングメリー号のリアルさ

――カヤの屋敷やゴーイングメリー号は、原作漫画そのままのリアルさを有しています。プロダクション・デザイナーのリチャード・ブリッジランドとどう作り上げたのでしょうか?

サリバン監督:カヤの屋敷にはテーマがありました。玄関ホールには海に関するものがたくさん置いてあります。それはとても美しいものなのですが、あまり画面には出てきていません。部屋の天井には天体図もあります。屋敷のダイニングルームには素晴らしい食べ物が広く置かれていて、それはシーフードばかりです。それと、カヤの寝室の壁には、ウソップの写真やゴーイングメリー号の絵が飾られています。そして、カヤが所有する造船所の壁には、大きなだまし絵が描かれているんです。シロップ村の造船と、カヤの家族が“常にそこにいる”という事実に回帰するようなテーマで作られていました。プロダクション・デザイナーのリチャードは、まるで魔法のようにセットデザインの細部にまでこだわっていました。


●シャンクスがルフィに“麦わら帽子を託す”「正しく表現することが重要だと感じた」

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―ー初期のエピソードで重要視されているのが、シャンクスがルフィに麦わら帽子を託すというシーンです。ここに至るまでどのように構築していきましたか?

ジョブスト監督:原作漫画では、象徴的な部分ですよね。漫画のフレーミングを明確に参照したいと思った、数少ないシーンのひとつでした。ただ、実写版では、漫画と同じフレームを再現しようとはしていけないとも思っていました。私たちは、尾田さんの精神を尊重したかったですし、あの特別なシーンには象徴的なイメージがあります。それを正しく表現することが、本当に重要だと感じていました。

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――では具体的にどのようにアプローチをしましたか?

ジョブスト監督:“あのシーン”を着地させるためには、シャンクスとルフィの間にあるエネルギーや友情が事前に構築されていたことを示すのが非常に重要でした。もしそれがなかったら“あのシーン”のインパクトはなかったと思います。ルフィがシャンクスを気にかけていることも、シャンクスがルフィを気にかけていることも分かっている。シャンクスは怪物を追いかけ、ルフィを助ける。だからこそ、その瞬間に至るまでの全シーンが、ルフィの頭の中を駆け巡っているということの重要性を伝えています。私は(若き日のルフィを演じた)コルトン・オソリオと一緒に仕事ができて嬉しかったです。あんなに素晴らしい結果を出してくれる子役を演出したのは初めてでした。私はこのシーンで彼に泣くように頼んではいませんでしたが、彼は何が必要とされているのかがわかっていました。あんなに若い俳優なのに、スタッフ全員の前で本当に素晴らしい演技を見せてくれました。

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