【「裸のランチ」評論】バロウズとクローネンバーグ、偉大な才能が出会った奇跡のような難解ドラマ
2023年7月9日 16:00

サブカルの原点でビート文学の旗手ウィリアム・S・バロウズの代表作を、デビッド・クローネンバーグが手がけた異色作。監督の生誕80年の節目に4Kレストア版となって甦る。
1953年ニューヨーク。害虫駆除業者のビル・リーはある日、妻のジェーンが仕事で使う殺虫剤をドラッグとして摂取していることを知る。ほどなくリーも中毒になり、幻覚状態のなか誤ってジェーンを射殺してしまう。警察に追われるリーは、謎の生物マグワンプに導かれインターゾーンに渡る。そこで待っていたのは、リーの想像を超える奇妙な出来事だった。
「裸のランチ」映画化の噂は、スタンリー・キューブリックやミック・ジャガーの名が取りざたされてきたが、1981年にクローネンバーグが言及、84年にジェレミー・トーマスがプロデュースに立候補、翌年にはバロウズを加えた3人で創作の舞台であるタンジールをロケハンした。しかし、難解で映像化困難といわれた原作だけに、クローネンバーグの脚本はなかなか進まず、初稿はようやく89年に書き上げられた(東芝製ノートPCが使われたと言われている)。
監督は原作から離れ、バロウズ自体を中心にした物語を構築。熱心な愛読者だったピーター・ウェラーは「ロボコップ3」を蹴って参加を即決。イアン・ホルムは監督のファン、ジュリアン・サンズとロイ・シャイダーは自ら売り込みがあり、製作のトーマス曰く「ゾクゾクするキャスト」が順調に決まっていった。監督に説得され出演を決めたジュディ・デイビスは例外で、原作も未読な上、脚本も殆ど理解できなかったと語っている。
撮影直前に湾岸戦争(1990年)が勃発、目玉のタンジール・ロケは全キャンセルになり、監督は脚本を2日で書き直した。トロントのスタジオに突貫で組まれたセットは7つ。700トンの砂が持ち込まれた浜辺や、民族衣装に身を包んだ200人のエキストラが行き交う市場、50体のマグワンプを収蔵する建屋(余りの不気味さに逃亡したエキストラも)などなど。特殊メイクのクリス・ウェイラス率いるチームは、50人で操作する身長2mのマグワンプをはじめ、虫形タイプライター(バロウズが1台持ち帰った)や黒ムカデ、ブロブなど無数のクリーチャーをアフリカまで運ばずに済みホッとしたと語っている。
映画は1992年7月に全米公開されたが、最高17位止まりで1600万ドルの製作費は殆ど回収できなかった。それから約30年、各種ディスクや配信で鑑賞可能なことから、今も多くの考察や賛否両論のレビューが投稿され続けている。2人の偉大な才能が融合した悪夢のような作品。この機会にぜひ体験することをお勧めします。ただし、虫嫌いの方はご注意を。
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