ジョン・レノンと18カ月に及ぶ愛人関係 メイ・パンが語る「失われた週末」で起こったこと【NY発コラム】
2023年5月4日 12:00
ニューヨークで注目されている映画・ドラマとは? 現地在住のライター・細木信宏が、スタッフやキャストのインタビュー、イベント取材を通じて、大作だけでなく、日本未公開作品や良質な独立系映画なども紹介していきます。
昨年開催されたトライベッカ映画祭で、話題を集めた作品があった。ザ・ビートルズのジョン・レノンとオノ・ヨーコの個人秘書であり、プロダクション・アシスタントを務めていたメイ・パンの姿をとらえたドキュメンタリー映画「The Lost Weekend : A Love Story」だ。
同作は、メイ・パンとジョン・レノンとの1年半に渡る愛人関係を自身の言葉でつづったドキュメンタリー作品。酒を断ったばかりのジョンと長年疎遠だった息子ジュリアンの再会、ポール・マッカートニーとロサンゼルスで再び結びつく様子など、ジョンの“自然な姿”が垣間見える作品に仕上がっていた。
今回は、メイ・パンへの単独インタビューが実現。世間では「失われた週末(The Lost Weekend)」と言われた頃について振り返ってもらった。最初に断っておきたいのは、ここで語られるのは、あくまで“メイ・パン自身の見解”だ。オノ・ヨーコ、その他のメンバーの視点では“別の解釈”もできるという点を前置きしておく。
ニューヨークのスパニッシュ・ハーレムで暮らす中国系アメリカ人の家庭で育ったメイ。当時は“マイノリティの中のマイノリティ”だったという。
「一緒にいる人は誰もおらず、アウトサイダーとみなされ、私はいつも一人でした。住んでいる場所の人たちとなんとか友達になろうとしましたが、それはちょっと大変でした。街に出て、ダウンタウンのチャイナタウンに行かない限り、他の中国人の家族はいなかったくらいです。“一人”というのは、とても寂しいものでした。プエルトリコ人や黒人、イタリア人もたくさんいましたが、彼らは私の思いを理解していませんでした。私にとっては非常に難しい環境だったんです」
彼女の父親は息子が欲しかったそうだ。そのため、両親は新たに男児を養子に迎えた。そのことで「自分が見捨てられたような気になった」こともあったそうだ。 高校を卒業し、大学を中退したメイ。子どもの頃から歌手ティト・プエンテ、ジョー・キューバ、ジェームズ・ブランドなどの曲を聴いて育った。
ごく自然な形でロックにもハマり、そのなかでも“リバプールの4人組”に惹かれていった彼女は、アラン・クレインがマネジメントするアブコ・レコードの受付として勤務することになった(同社は、アップル・レコードと、ジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターが代表だった)。
音楽に精通していたメイは、すぐにジョンとヨーコの個人秘書となり、彼らのもとで3年間勤めていた。当時の彼女は、夫婦のさまざまな出来事を把握していたため、ジョンには恋愛感情や興味を持っていなかったそう。
だが、ジョンとの関係がうまく行っていなかったヨーコから「ジョンとの交際」を促された。これが、のちに大きな波紋を呼ぶことになる。
「私はヨーコに『ジョンに関しては興味がない』と伝えると、彼女は『それはわかっているわ』と言ってきたんです。彼女は、私より17歳年上。男性には愛人や側室がいるような時代で育ったかもしれないけれど、私はアメリカ育ちで、そんなことへの理解はできていませんでした。もちろん、私は彼女にそう伝えたけれど、彼女は『(ジョンとの交際は)いいと思う』と言って部屋を出ていきました。私は、一体何が起きたのかわかりませんでした。突然、涙が出てきて、パニックになって、何が起きたか理解できずに、誰に相談したら良いのかもわからなかった」
ヨーコからメイとの交際を促されたジョンも戸惑っていたそう。しかし、最終的に、ジョンはメイを追いかけることになった。
この関係性は、短期間の浮気や不倫とは異なり、18カ月以上の間続くことになった。これが「失われた週末」と呼ばれる期間だ。ヨーコは、ジョンが自分の元に帰ってくると信じていたのだろうか。
「それに関しては、とても複雑です。彼女は人々にこう言っていたそうです。『この交際が2週間も続くとは思わなかった』と。私は『これは性的なことで、すぐに終わり、彼(ジョン)はそれを間もなく忘れてしまうだろう』と彼女が考えていたと思います。ジョン自身にも、他にやりたいこと(=ザ・ビートルズ以外の活動)があったはず。これらが複雑な状況を生み出していて、人々に理解されないことでもありました。だから、ジョンが“家に戻らない方がハッピーである”とヨーコが知った時、彼女も少し動揺していたと思います。実際には映画で描かれている以上のことが起きていて、私とジョンは幸せで、新たに家を買うつもりでした。それにポールとリンダに会いに行く予定もありました」
結局、ジョンとヨーコが離婚することはなかった。だが、1974年、ヨーコは、ジョンに離婚を切り出したことがあったそうだ。
ザ・ビートルズ時代のジョンは、常軌を逸した形で好奇の目にさらされていた。私生活を充実させることはできなかったのではないだろうか。時には息苦しい時もあったはずだ。ともに過ごした18カ月、メイはジョンのどのような魅力に気づいたのだろう。
「私とジョンのベースには、お互いが音楽を深く理解していたというものがありました。そこを通じて繋がっていたんだと思います。多くの人は知らないけれど、私はジョンに会う前からすでに音楽には関わっていたんです」
メイは、ソング・プラガーとして働いていた。ソング・プラガーとは、20世紀初頭に百貨店や楽譜店、音楽出版事業者などに雇われ、新譜の楽譜販売を促進するために、実演してみせていた歌手やピアニストなどのことを指している。
「だから、私は音楽を把握していたし、私たちにはそのことを通じて話すことがたくさんあったんです。『このレコードが好きだから、この人に会いたい』と言うと、ジョンは『へぇ、このレコードが好きなんだ』と。私がこれほど音楽に詳しいことに驚いていましたね。『我々アメリカが先に音楽を手に入れて、あなた方(=英国)は中古で手に入れてるのよ』。こんな風に言ってやったこともありました」
メイは、ジョンと共にバスに乗り、彼にあえて歩かせたりしたそう。一時期はメイの狭かったアパートで一緒に暮らしていたこともあった。 そんな彼女は、ジョンの最初の妻シンシア、そして息子ジュリアンと親しい関係にある。彼らとはどのような会話を交わしてきたのだろうか。
「シンシアとの関係はとても珍しいものだと思います。彼女はとても素敵で、実直な女性でもありました。実際に体験をした人でなければ、同じ状況について話すことはできません。彼女は、レノンとの“同じような体験”について笑いながら話してくれたんです。『あぁ、わかる、わかる。他の人が理解できないことが、私にはとてもよくわかるわ』とね。彼女とは特別な絆で結ばれていましたし、お互いに気にかけてもいました。しばらく音沙汰がないと、彼女から『今、どこにいるの?』と連絡があったくらいです。最後に会ったのは、亡くなる1年前。英国に会いに行ったんです。その頃は、彼女のご主人が亡くなったばかり。『大丈夫ですか?』と問いかけると『あなたが来ると信じていた』と言われました。その状況は、何年も前から聞いていました。私は一度も飛行機に乗って彼女に会いに行ったことはありませんでした。ニューヨークで会うことはあっても、ロンドンで会うことはなかった。だから、彼女に会えてよかった。彼女は、ジュリアンに何かあった時、私が傍で面倒を見るということを察していたと思います。それほど信頼を寄せてくれていました。ジュリアンはだいぶ年をとりましたし、私の助けは必要ないでしょう。でも、いつも彼の傍にいるつもりです。彼もそのことを知っていると思います。なぜなら、ジュリアンが作ったアルバム『ジュード』のジャケットの絵は、私が撮った(子どもの頃の)ジュリアンの写真なんです。彼はその写真を使ってくれました」
ザ・ビートルズ解散後、ポールとジョンはロサンゼルスでジャムセッションを行ったこともあった。もしジョンが今でも生きていたら、一緒に音楽を作っていたのだろうか。
「私がジョンと築いた家庭は、シンシアやヨーコのものとは異なっていたと思っています。あくまで私の家で起きたことですが……1975年1月、ポールとリンダが我々に会うためにやってきました。彼らは『これからニューオーリンズに行き、新たなアルバムを作る』と言ってきたんです。そのアルバムは『Venus and Mars』。ジョンは『それは素晴らしい』と言っていました。この話は、ザ・ビートルズを正式に解散させる契約書にサインをした後のもの。ポールとリンダが帰った後、ジョンは私に『君に聞きたいことがあるんだ。もし僕が、ポールとまた一緒に作曲を始めたら、どう思う?』と言ってきました。私は『エクソシスト』のように首を傾げて『それは素晴らしいことだわ』と伝えましたが、彼は『なぜだい?』と聞き返してきました。だから私は『あなたとポールがソロで書いているソングは素晴らしいけれど、2人が一緒に作ると、それに勝るものはないし、マジカルだから』と伝えました。彼は『それは、そうだね』と言っていました。それが私とジョンが別れる前に交わした、最後の会話のひとつでした。その時の彼は『チケットを手に入れて、ニューオーリンズに一緒に行こう』と言っていました」
では、ヨーコと和解するとしたら、それはどのような形になるのだろうか。
「ジョンが亡くなった時、彼女に連絡をとろうとしました。でも、彼女からは何の返事もきませんでした。それから、アイスランドのホテルで再会した時、彼女に手紙を書いたんです。『メイです。あなたがどんなことをしていても、成功することを願っています』とね。何も返事はなかったけど、翌朝、レストランにはマスコミを含む大勢の人々がいました。私の友人は、ヨーコから『何を食べているの?』と聞かれたと言ってきました。そこで私は、ヨーコに近づいて、彼女の名前を呼んだんです。ヘアピンの音が聞こえるほど、部屋が静まり返りました。私は『ただ、お元気ですかと言いたかったんです。あなたの幸運を祈っています』と告げました。彼女は『ありがとう!』と答えてくれました」
その後、ヨーコは手を振ってくれたそうだ。しかし、その行動がメイ本人に向けたものなのか、彼女への対応をマスコミに見せようとしたものなのか……メイは、その真相は「わからない」と語っていた。
フォトギャラリー
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
“貴重な作品”が大量に無料放送! NEW
【“新・放送局”ついに開局!!】ここでしか観られない作品を、何度も堪能して!(提供:BS10 スターチャンネル)
室町無頼
【激推しの良作】「SHOGUN 将軍」などに続く“令和の時代劇ブーム”の“集大成”がついに来た!
提供:東映
サンセット・サンライズ
【新年初“泣き笑い”は、圧倒的にこの映画】宮藤官九郎ワールド全力全開! 面白さハンパねえ!
提供:ワーナー・ブラザース映画
意外な傑作、ゾクゾク!
年に数100本映画を鑑賞する人が、半信半疑で“タテ”で映画を観てみた結果…
提供:TikTok Japan
ライオンキング ムファサ
【全世界史上最高ヒット“エンタメの王”】この“超実写”は何がすごい? 魂揺さぶる究極映画体験!
提供:ディズニー
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
トニー・レオンとアンディ・ラウが「インファナル・アフェア」シリーズ以来、およそ20年ぶりに共演した作品で、1980年代の香港バブル経済時代を舞台に巨額の金融詐欺事件を描いた。 イギリスによる植民地支配の終焉が近づいた1980年代の香港。海外でビジネスに失敗し、身ひとつで香港にやってきた野心家のチン・ヤッインは、悪質な違法取引を通じて香港に足場を築く。チンは80年代株式市場ブームの波に乗り、無一文から資産100億ドルの嘉文世紀グループを立ち上げ、一躍時代の寵児となる。そんなチンの陰謀に狙いを定めた汚職対策独立委員会(ICAC)のエリート捜査官ラウ・カイユンは、15年間の時間をかけ、粘り強くチンの捜査を進めていた。 凄腕詐欺師チン・ヤッイン役をトニー・レオンが、執念の捜査官ラウ・カイユン役をアンディ・ラウがそれぞれ演じる。監督、脚本を「インファナル・アフェア」3部作の脚本を手がけたフェリックス・チョンが務めた。香港で興行ランキング5週連続1位となるなど大ヒットを記録し、香港のアカデミー賞と言われる第42回香港電影金像奨で12部門にノミネートされ、トニー・レオンの主演男優賞など6部門を受賞した。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。