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最大の発見は、ロシアのトランスジェンダー案件でした。SXSW2023映画祭【映画.com編集長コラム】

2023年3月28日 12:00

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ドキュメンタリー「Queendom」
ドキュメンタリー「Queendom」

オースティンで開催されたSXSW2023。今回、実質3日間の参加で映画は5本見ることができました。そのうち、一番最後に見た映画がもっとも強烈で心を揺さぶられました。ロシアの若きクイアが主人公の「Queendom」というドキュメンタリーです。

映画は、シベリアの港町「マガダン」の空撮映像で幕を開けます。巨大な集合住宅の威容。一面に広がる荒涼な雪景色。大陸の果てにある寒い町が舞台であることが否応なしに伝わり、一気に映画に引き込まれます。

GoogleMapを貼っておきましょう。マガダンがどれほど極東にある町なのかお分かりいただけるでしょう。モスクワから東に1万キロ、サハリンよりも北のオホーツク海に面した町が、主人公の生まれ故郷マガダンです。

マガダン・モスクワ間の距離
https://goo.gl/maps/FFgZaM1r6JzZjDHW7

カメラは地上に移り、体躯のひょろ長いスキンヘッドの若者が、変わった衣装を纏って団地の扉から出て来るショットに。見る者の好奇心を鷲掴みする強烈なショットです。

「この若者は、いったい何者なんだ? 映画の監督もただ者じゃないぞ」……奇抜な格好は、SNSで映えるためのものであることは明白です。極寒の海岸でポーズを取り、同行している友人がスマホで撮影します。

彼(彼女)の名はジェナ・マービン(Gena Marvin)。撮影当時、アートスクールの学生でした。アーティスト、あるいはパフォーマーを目指しています。

スリムな長身に、厚底のハイヒール。そして、宇宙人みたいなメイク。……もう、画面に釘付けになります。「こいつ、ただ者じゃない」と誰もが感じます。5本の指を5倍以上にストレッチした手のメイクとパフォーマンスも超クール。ロシアのクイア、相当レベルが高い。

しかし、私生活はそれほどクールってわけじゃありません。両親がいないので、祖父母のすねをかじって暮らしています。おじいちゃんは、孫が普通の男の子とは違うセクシャルを表現していることを快く思っていません。

舞台はいつの間にかモスクワに移っています。ジェナは学校のあるモスクワから時々マガダンに帰りますが、おじいちゃんは会うと嫌味ばかり言います。しかし、経済的にはおじいちゃんを頼らざるを得ない。その点、優しくて理解のあるおばあちゃんの存在が救いになっています。

見ているうちに、ジェナのファンになっている自分に気づきます。「次はどんなブッ飛んだ装束を見せてくれるかな?」と興味津々になる一方、「モスクワで、バレエとかダンスとか学んでいるのかな?」など、そのバックボーンにも想像が及びます。そしてこれは、映画を見終わった後も継続することに。「Gena Marvin」と検索すると、いろいろ出てきてけっこう楽しめる。

2023年、この映画を通じて、世界がジェナ・マービンを知ることになるでしょう。ブレークスルーは確実だと思います。問題は、その規模感ですね。どんだけジェナが有名になるのか、大変興味深いところ。

ジェナのSNSを2つほど貼っておきましょう。ベンチマークを兼ねて。この原稿を書いている2023年3月27日現在のフォロワー数とともに。

TikTokのフォロワー:24.6万人
https://www.tiktok.com/@genamarvin
インスタグラムのフォロワー:12.8万人
https://www.instagram.com/genamarvin/

TikTokの動画を集めたものがYouTube(https://youtu.be/hkUAA6aTTCY)にあって、これを見ると、ジェナのパフォーマンスの世界観やコンセプトがつかめると思います。

映画はロシア案件だけあって、ウクライナ侵攻の問題もガチで描かれているし、プーチン政権に逮捕され収監されているアレクセイ・ナワリヌイの話も出てきます。つまり、ロシアでは絶対に上映できない映画です。そして、ロシアで2022年に成立した反LGBTQ法案がジェナの人生に非常に大きな影響を及ぼすことになります。この映画、カタルシスはそれほど大きくなくて、むしろ辛さやほろ苦さが後に残る。

監督は、アニャ・ガルダノーバ(Agniia Galdanova)という女性監督。ドラァグクイーンのシリーズを作ろうと、ロシア全土をロケハンしていたところ、ジェナに会ったことでロケハン終了。ジェナについて1本の映画を作るプラン変更を即決したそうです。

以上が、SXSWでの最大の発見となった映画「Queendom」の件。この映画が、今年どんなジャーニーをたどるのかとても楽しみ。日本でも劇場公開されるといいですね。

(駒井尚文)

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