ジョージ・ミラー監督、新作「アラビアンナイト」での挑戦 アイデアを思いつく瞬間も明かす
2023年2月23日 08:00
「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のジョージ・ミラー監督による最新作「アラビアンナイト 三千年の願い」が、2月23日から公開された。このほど、ミラー監督がオンラインインタビューに応じ、本作について話を聞いた。
古今東西の物語や神話を研究する学者アリシアは、講演先のイスタンブールで美しいガラスの小瓶を買う。ホテルの部屋に持ち帰ると、中から巨大な魔人が飛び出し、瓶から出してくれたお礼に「3つの願い」をかなえると申し出る。しかし、物語の専門家であるアリシアは「願い事」を描いた物語にハッピーエンドがないことを知っており、魔人の誘いに疑念を抱く。魔人は彼女の考えを変えさせようと、3000年におよぶ自らの物語を語り出す。
現在「Furiosa(原題)」を製作中のため、オーストラリア・シドニーからリモートを繋いだミラー監督。御年77歳、この日もおしゃれなサングラスをかけていた。
本作について「人間だからこそ自問するようなこと、例えば“存在”についての自問を扱っています。そのほか、生きることの本質や、命のあることの意味、さらにもう一つ大きな問いとして、“愛”の定義についても扱っています。それらと共に、物語とは何かということも本作では描いています」と説明し、「とにかく大きな問いかけがたくさんあるので、それをすべて描くのが今回の大きな挑戦でした」と振り返る。
主人公を演じたティルダ・スウィントンとは、今回が初タッグとなった。「敬意を込めて、“ティルダ様”と呼んでいる」と明かし、「人としても、役者としても最高。彼女と仕事をした監督の一人になれて光栄です。私は今回が初めての仕事だったけれど、優れた監督たちは彼女と何度も仕事をしている。彼らが彼女と組むのは、彼女の絶対的な個性と風格にあるのだと思う」と印象を語る。
魔人という難役を演じたイドリス・エルバについても「ティルダと同様に、彼の演技を見たことはあったが、実際に会ってみると印象が変わった。なぜか彼に会った瞬間、魔人にふさわしいと感じたんです。のちに、その理由が分かったけれど、それは俳優としての才能とは別のもの。役者もアスリートのようなもので、才能があるかどうかは、スクリーン上ですぐに分かるのです。しかし、それとは別にカリスマ性も重要なんです。カリスマ性というのは、ある意味、矛盾でもある。ある時は非常に親しみやすい存在であり、仲のいい友人や親友になれる気にさせる。その一方で、驚くほどミステリアスな存在でもある。そういった対照的で矛盾ともいえる状態が、彼のカリスマ性の本質なんだと思います。この両方の顔こそ、魔人が持っているもの。だから、何度でも言いますが、彼が魔人を演じてくれて本当に感謝しているんです」と話す。
芸術的で美しい映像に、奇妙で切ないストーリー。本作のようなアイデアはどんな瞬間に思いつくのかを聞いてみると、「常にいろんなストーリーが頭の中を巡っているんです。そもそも頭の中にずっと発想がある」と前置きしつつ、以下のように教えてくれた。
「僕の場合は、朝起きたときにアイデアを思いつくことが多い。何か1つに集中していないときに思いつくことが多いんじゃないかな。散歩でアイデアを思いつく人もいるみたいだけれど、僕はドライブとか飛行機での移動中に思いつくこともある。細かいことや大きな可能性を行ったり来たりしながら、段々と発想は形になっていくんじゃないかなと思います。あるアーティストが、体を使って絵を描いてから、次は一歩下がって、180度回転してから最後に戻ってくると、絵の全体像が初めて見えると言っていました。これは監督にとってもとてもしっくりくるプロセスだと思う。天才と言われたアインシュタインも、考えにはまったときはセーリングをしてインスピレーションを得ていたという話があります。知性がある状態での考えと、リラックスしているときに思いつく直感。この2つの状態のなかで物語は生まれてくるんだと思います」