【「レジェンド&バタフライ」評論】時代劇受難の世に一石を投じた、大友啓史監督の“勝ち戦”
2023年1月28日 11:30

コロナ禍以前から、時代劇にとって苦しい時代が長らく続いていた。製作本数が減るということは、技術を継承する機会も等しく減ることを意味している。観客の“見る目”が云々という議論が交わされる以前に、日本人のDNAに刷り込まれた時代劇は、もう必要のないものになってしまったのだろうか。
大友啓史監督が東映から、創立70周年記念作品をオリジナルの時代劇で…とオファーを受けたのは、2021年1月。東映の製作チームからは、「令和の新しい時代劇を作るための“劇薬”になって欲しい」という口説き文句を投げかけられたそうだが、「龍馬伝」でNHK大河ドラマの在り方を国民に提示し、「るろうに剣心」全5作では日本のアクションを鮮やかに刷新してみせた大友監督は、時代劇に三度目の“奇跡”をもたらすという難題を突き付けられたことになる。
今作の肝となるのは、古沢良太のオリジナル脚本、木村拓哉が織田信長役で主演することはもちろんだが、東映京都撮影所で製作することに大きな意義がある。「るろうに剣心」を大成功に導いた大友監督が、京都・太秦の職人たちと真っ向から対峙し、果たして時代劇を新たなステージへと連れて行くことが出来るのか。本編を観れば、答えは一目瞭然。今作に関わったスタッフひとりひとりの誠実な仕事ぶりが細やかな部分に配され、もはやエキストラとは呼べないほど作品世界に溶け込んだエキストラも含め、誰も彼をも完全な“勝ち戦”へと導いたと言ってしまえるほどに、贅沢な映画体験が用意されている。
描き尽くされてきた織田信長の49年の生涯で描くべきポイントをきちんと抑えながら、ウィットに富んだ解釈が効果的に加味されている。オファーを受けた当初、大友監督ですら「これほどの座組みなのに、信長かよ」と思ったというが、大友組のスタッフ、キャストがぶれることなく同じ方向へ突き進んだことで、令和の世に観るべきリアリティに溢れた時代劇が完成した。
2時間48分という長尺を取り沙汰されることもあるが、長さは気にならないどころか一寸の隙もない作品に仕上がっている。今後、時代劇を製作する映画人たちにとって長きにわたり勇気をもらえると共に、大きなハードルにもなり得る指針となる作品の誕生は喜ぶべきだろう。映画館の大スクリーンで観てこそ、細部にいたるまで入魂の作品であるということを感じ取ることのできる珠玉の作品だ。
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