「男優賞」「女優賞」は撤廃すべき? 映画賞審査員の本音【ハリウッドコラムvol.325】
2022年12月24日 09:00
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ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。
来年のアカデミー賞に向けて賞レース真っ盛りとなっているが、映画賞のあり方に関して、ある議論が湧き上がっている。性別区分撤廃の是非である。
アカデミー賞をはじめ、多くの映画賞では主演男優賞、主演女優賞というように、役者を性別で区分して審査している。だが、昨今のジェンダー意識の高まりを背景に、ベルリン国際映画祭や英国インディペンデント映画賞、MTVムービー&TVアワード、グラミー賞が区分を撤廃。アカデミー賞の前日に行われるインディペンデント・スピリット賞も、来年からは撤廃すると発表している。
ひとりの映画ファンとしては、このトレンドに大賛成だ。最近ではトランスジェンダーであることを公表したり、ノンバイナリーを自認する役者が増えてきている。彼らにとってみれば、生物学的な性差で区分けする映画賞は受け入れがたいものであると、容易に想像できる。
そもそも役者たちは演技そのもので評価されるべきであって、人種や性別、性的指向、年齢といった属性とは関係ない。アーティストを性別で区別するなんて、年末の国民的歌番組を彷彿とさせる昭和的価値観である。男優・女優なんて区切りはさっさと撤廃して、俳優賞とすればいいと思う。
威勢良く本音をぶちまけてみたものの、映画賞の審査員に立場を変えると、「撤廃の方向で議論を進めています」と、政治家のような返答に逃げざるを得なくなる。いま性別区分を撤廃すると、メリットをはるかに超えたデメリットが生じるリスクがあるからだ。
たとえば、大半の映画賞において監督賞には性別の区別がない。そして監督賞においては、女性監督のノミネート比率の低さが常に話題にされている。2018年のゴールデングローブ賞授賞式のプレゼンターに登場したナタリー・ポートマンは、ノミネート監督に男性しかいないことを皮肉って、「ノミネートされた男性はこちらの方々です」と紹介したのは有名な話である。
先日発表されたゴールデングローブ賞の監督賞も、ジェームズ・キャメロン(「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」)、ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート(「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」)、マーティン・マクドナー(「イニシェリン島の精霊」)、スティーブン・スピルバーグ(「フェイブルマンズ」)と見事に男性のみだった。
今年のゴールデングローブ賞は従来の会員に加えて、100人以上が新たに投票に参加しているため、投票者の嗜好を責めるのは筋違いだ。むしろ、女性監督の作品が少ないという、映画界の構造的問題だと思う。
アカデミー賞もゴールデングローブ賞も、主演部門では男優賞5人、女優賞5人となっている。もし、性別を取っ払い、「主演俳優賞」のノミネート数を10人とした場合、なにが起きるか? 監督賞と同様、男性が大半を占める展開になるだろう。映画の主役を演じているのは、男性のほうが圧倒的に多いからだ。
つまり、映画賞に多様性を取り入れようとした結果、女性排除を促す展開になりかねないのだ。女優たちの怒りの矛先は、変革を求めたトランスジェンダーの人たちに向き、ハリウッドで「女性VSトランスジェンダー」という対立構図が生まれてしまうかもしれない。
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だが、近い将来、こんな不安は解消されるかもしれない。
2016年の「白すぎるオスカー」問題をきっかけに、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは率先して構造改革に乗り出している。その結果、すべてのマイノリティたちに積極的に機会が提供されている。大ヒットドラマ「ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪」(シーズン2)のように、全話を女性演出家が手がけるようなケースも増えてきた。
女性が監督としてトップを務めると、スタッフの女性比率が高くなることも明らかになっている。それは彼女たちが伝える物語にしても同様で、強くて魅力的なヒロインが活躍する作品が増加する。つまり、女優たちにとってより多くのチャンスが与えられることになるのだ。
そんな日を心待ちにしている。
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