【「映画はアリスから始まった」評論】世界初の物語映画は女性監督が生み出したという黎明期の功績が明らかに
2022年7月24日 18:00

フランスの映画発明者で“映画の父”と呼ばれるリュミエール兄弟(兄オーギュスト、弟ルイ)が手掛けた世界最初の実写映画「工場の出口」「列車の到着」(1895)を筆者が大学生の時に初めて見た時の感動は今も覚えている。それから映画の黎明期の歴史についても勉強してきたので、関連書籍の中などでその名前を目にしていたかもしれないが、アリス・ギイという名前に覚えはなかった。
アリスはパリ郊外で生まれ、裕福な家庭で育つが、後に事業に失敗した父と兄が亡くなったため、パリの写真機材会社ゴーモン社に就職。レオン・ゴーモン社長の秘書となり、1895年、リュミエール兄弟がシネマトグラフで初めて映画を上映した場所にいたという。そして社長の許可を得て、翌1896年、第一回監督作品「キャベツ畑の妖精」を完成させ、世界初の女性映画監督となる。リュミエール兄弟の「工場の出口」「列車の到着」は、工員たちが工場から出てくる様子や、列車が駅に到着する様子を撮影した記録映画だが、アリスは「キャベツ畑の妖精」で、世界で最初に物語映画を監督した。
それから多くの作品を映画黎明期にてがけ、1907年に渡米。映画製作会社を発足し、クローズアップ、特殊効果、カラー映画、音の同期といった現在の標準的な映画製作技法を数多く生み出して、ハリウッドの映画製作システムの原型を作ったと言われ、1000本近くの作品をつくり、映画史に大きな足跡を残した。
だが、リュミエール兄弟や映画の魔術師と言われたジョルジュ・メリエスと並ぶ映画黎明期のパイオニアでありながら、これまで映画史から忘れ去られてきたのはなぜなのか。インタビューに答える現在の著名な俳優や監督たちも大半が口々にアリスについて「知らなかった」と言う。ジョディ・フォスターのナレーションで、生前のアリス自身や彼女の親族、さらにベン・キングズレー、アニエス・バルダ、マーティン・スコセッシらへのインタビュー、フッテージ映像などを通し、その功績と人生をひも解いていくとともに、忘れ去られてきた理由が明かされ、映画史的に非常に貴重なドキュメンタリーとなっている。
「キャベツ畑の妖精」をはじめ、アリスが手掛けた作品のフッテージ映像を見ると、黎明期にこのような作品が作られていたことに驚く。映画の“物語る力”の可能性を最初に見出したのが女性だったということ、そしてアリスに続いて当時多くの女性監督がいたことは、改めて映画史に刻み込まれるべきである。アリスが自ら演じているシーンや監督している姿は感動的だ。その時代や社会的背景も影響していると思われるが、さらに緻密なリサーチを続ければ、彼女が忘れ去られた理由がより明確になることだろう。
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