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【「魂のまなざし」評論】女性画家の魂の変遷、痛切な“まなざし”が見つめ続けたこと。

2022年7月17日 13:30

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「魂のまなざし」
「魂のまなざし」
(C)Finland Cinematic

若き日の希望を胸の中に閉じ込めて生きた才気溢れる女性画家がいた。彼女の名はヘレン・シャルフベック。1862年にフィンランドのヘルシンキで生を受け、絵の才能を認められて18歳でパリに留学、画家志望の英国人男性と婚約するが、相手の都合で破談に。20代を過ごしたパリで何があったのか、彼女は多くを語っていない。

1915年、母とふたりで暮らすヘレンは53歳。パリのアート界で男性優位社会の壁にぶつかり、帰国後は隠遁者のような日々を送っている。小さな家を訪れる客もなく、無愛想で苦言ばかりを吐く母とは確執を抱えていた。

ある日、パリ時代の友人の口利きで画商ヨースタ・ステンマンが訪れ、小さな家で埃をかぶっていた159枚もの絵に驚愕するや「すべて売ってみせる」と即座に個展開催を決める。ヘレンの絵画は再評価され瞬く間に時の人となる。

1917年、個展の成功後、彼女の絵に魅せられたという画家志望の青年エイナル・ロイターが現れる。意気投合したふたりは一緒に絵を描き始める。翌年、内戦を避けて海辺の街に移り、ひと夏の濃密な2週間を過ごす。この時、ヘレンの願いはひとつだけ。「あなたを描かせて欲しい」…19歳年下の青年には若さと情熱が漲る。その肉体を描くのだ。

エイナルの身体を絵筆でなぞる。身体の奥底にしまい込んでいた欲望が沸き上がる。身体の芯が渇きに悶え魂を焦がす。触れたい。抱きしめたい。噛みつきたい。全身を貪りたい。この身を捧げたい。でもそれは叶わない。口にすることすらできない。

エイナルを描いた《船乗り》の創作過程、その描写に言葉は要らない。アンティ・ヨネキン監督の意を汲んだ女優ラウル・ビルンが心の悶えを体現する。静謐でありながら、燃えたぎるような心の葛藤が画面に溢れ、激烈に心を揺り動かす。

夏が終わり、ヘレンは青年と未来を共有することを願った。なけなしのお金を工面し、若き日に見たノルウェーへと送り出す。だが、待ち焦がれていたエイナルからの手紙は「婚約」を告げるものだった。行き場のない憤りが破壊衝動へと走らせる。体調を崩し、それでも描き続けた彼女は、1921年10月の手紙で「画家というのは魂を暴くのかしら、仕方ないわね。私はもっと恐ろしく、もっと強い表現を求めている」と記している。エイナルとの交流は生涯続き、ヘレンが書いた1,000通を超える手紙が今も残る。

大失恋の後、自らへと向かった痛切な“まなざし”は揺らぐことはなかった。写実的であった絵画は、魂だけを抉り出すかのように抽象的な表現へと純化していく。自画像を描くことで自分自身を見つめ続けたヘレンは、1946年に療養先で逝去。83歳だった。

高橋直樹)※高は、はしごだかが正式表記

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