マルタ映画を日本に初上陸させた理由とは? Web番組「活弁シネマ倶楽部」の挑戦に迫る

2022年6月23日 20:00


「ルッツ 海に生きる」6月24日公開
「ルッツ 海に生きる」6月24日公開

地中海の島国・マルタ共和国発の映画「ルッツ 海に生きる」が、6月24日から公開される。同作は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021で披露されており、国際コンペティション部門にて最優秀作品賞(グランプリ)を受賞。日本初上陸となる“マルタ製作の映画”だ。

本作の主人公は、マルタ特有の伝統漁船ルッツの漁師ジェスマーク。漁師という仕事に誇りを持ちながらも、家族を養うためにお金を稼がなければならないという現実との狭間でもがく、ジェスマークの苦悩と葛藤が描かれる。誰しもが共感できる切実な題材であるとともに、地球温暖化の問題、EUの共通漁業政策、格差問題など、社会の不条理に切り込んだ人間ドラマとなっている。

アーク・フィルムズとともに配給を手掛けたのは、Web番組「活弁シネマ倶楽部」(https://www.youtube.com/channel/UCyItJT2FIK8S7oLe5EPAofg)。“映画を語る”を理念として活動を続ける番組が、なぜ“映画を配給する”ことになったのか。同番組の企画・プロデューサーを務める徐昊辰氏に、新たなステップの真意を聞いた。

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――「初の共同配給」を手掛けることになりましたが、配給に進出した経緯を教えて頂けますか?

まずは「活弁シネマ倶楽部」の軌跡を簡単に紹介させていただきます。

「活弁シネマ倶楽部」は、映画を学び、語る楽しみに気づいてもらい、新たな作品と出合うために発足したプロジェクトです。「映画を語るWeb番組」として、300本近くの動画を発信してきました。立ち上げは2018年。当時、長尺で映画を語るYouTube番組はそれほど多くなかったんです。試行錯誤を重ねながら、さまざまな監督、映画関係者の皆様に出演いただきました。

番組の制作を通じて“映画のプロ”と出会ったことで、「活弁シネマ倶楽部」としての「やりたいこと/できること」が増えてきました。私自身は、各国の映画祭に参加し、毎年500~600本ほどの新作映画を拝見しています。世界には、日本未公開の良作がたくさん存在している。そう感じていました。

だからこそ「活弁シネマ倶楽部」は、今までの「Web番組」という枠組みを超えようと思いました。「映画を語る」だけではなく「映画を配給」。そうすることで、皆さんに作品をに紹介する。そんな挑戦を試みたいと考えていました。

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――では、配給第1弾作品として「ルッツ 海に生きる」を選んだ理由を教えてください。

どのような作品を配給するか――これは、非常に重要だと感じていました。番組としての「活弁シネマ倶楽部」では、常に「“今”を描いている作品」「国際的視野を持った作品」「これからの活躍に期待ができる新人監督の作品」という3つのポイントを中心に、作品を紹介し続けています。だからこそ、配給に関しても、この3つのポイントを踏まえて、作品をセレクトしました。

ルッツ 海に生きる」は完成度が高く、とても素晴らしい作品だと思います。舞台は、グローバル化が進むヨーロッパの“ミニ国家”マルタ。主人公の漁師が迷い、立ち止まる姿を描く人間ドラマでありながら、マルタ社会の“今”もとらえています。監督を務めているのは、マルタ出身のアメリカ人アレックス・カミレーリ。長編初作品ですが、新人だと思えない素晴らしい演出力にも驚きました。

また、同作はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021のグランプリを受賞しています。「活弁シネマ倶楽部」は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭のメディアパートナーでもあるので「初の配給作品」に最も相応しいのではないかと思いました。

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――今回、配給業務を進める中で、学んだこと、驚いたこと、困難等はありましたか?

初の映画配給なので、学ぶことばかりです。共同配給のアーク・フィルムズさんから「作品の買い付け」「劇場のブッキング」「作品の宣伝」「イベントの企画」などについて教わりました。特に本作のような小規模の作品は「限られた予算のなかで、どのように宣伝するのか」「どのような切り口で宣伝プランを立てるのか」が重要。宣伝担当者も含めて、定期的に作戦会議を開いていました。アイデア出しといった有意義な時間を過ごせたので、とても楽しめました。

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――「ルッツ 海に生きる」のおすすめポイントを教えてください。

まずは、日本で初めて劇場公開される“マルタ製作の映画”という点です。主人公ジェスマークの物語を通じて、EUに加入したマルタの伝統と革新、グローバルとローカル、反抗と妥協、仕事と家族など、色々考えさせられる作品なんです。

次に伝えておきたいのは、アレックス・カミレーリ監督の演出力。本作からは、ドキュメンタリーのようなリアリズムを感じるんです。“ご当地映画”のように、世界有数の観光地でもあるマルタの風景に焦点を当てることなく、マルタの伝統漁、水産業、出稼ぎ労働者といった“リアル”な一面に心を奪われてしまうはずです。

そして、ぜひ注目してほしいのは、ジェスマークを演じるジェスマーク・シクルーナさんの存在。カミレーリ監督は、リアリティにこだわった結果、最初から俳優ではない人を主人公に起用すると決めていたそうです。そこで出会ったのが、実際に漁師として働いているシクルーナさん。彼は、ある意味俳優にはできないことを表現していると思います。非常に素晴らしい演技なんです。

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――「活弁シネマ倶楽部」の今後の展望について、教えてください。

目標は、最も大きな映画コミュニティを作ること。そんな野望を抱いています(笑)。「活弁シネマ倶楽部」は、映画を語って紹介するWeb番組であり、映画を配給する組織でもあり、次世代の映画スターを育成するワークショップの場でもあります。今後は、映画に関するあらゆることに参入していきたいと考えています。映画のファンや観客、製作者たちが集まる理想のコミュニティを築くことができたら「映画の可能性」もどんどん広がっていくと信じているんです。今後の配給作品はまだ決まっていませんが、次はアジアの新人監督の作品を紹介していきたいと考えています。

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