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【国立映画アーカイブコラム】約百年前の震災の実態をいまに伝えるために

2021年10月27日 09:00

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クリップ「架線の敷設工事」の一場面と、災害史家・田中傑さんの調査資料(右上)、調査ノート(右下)
クリップ「架線の敷設工事」の一場面と、災害史家・田中傑さんの調査資料(右上)、調査ノート(右下)

映画館、DVD・BD、そしてインターネットを通じて、私たちは新作だけでなく昔の映画も手軽に楽しめるようになりました。 それは、その映画が今も「残されている」からだと考えたことはありますか? 誰かが適切な方法で残さなければ、現代の映画も10年、20年後には見られなくなるかもしれないのです。国立映画アーカイブは、「映画を残す、映画を活かす。」を信条として、日々さまざまな側面からその課題に取り組んでいます。広報担当が、職員の“生”の声を通して、国立映画アーカイブの仕事の内側をご案内します。ようこそ、めくるめく「フィルムアーカイブ」の世界へ!


国立映画アーカイブはこれまで「日本アニメーション映画クラシックス」(https://animation.filmarchives.jp/index.html)、「映像でみる明治の日本」(https://meiji.filmarchives.jp/)といったWEBサイトを通じて、所蔵する映画をオンラインで公開してきました。今年の9月1日には、第3弾となる動画配信サイト「関東大震災映像デジタルアーカイブ」(https://kantodaishinsai.filmarchives.jp/)を、国立情報学研究所と共同で立ち上げました。

このサイトは、関東大震災から100年の節目となる2023年9月1日までに、当館が所蔵する関東大震災関連の映画全てを公開する試みで、現在は、関東大震災関連映画としては稀少な長篇の記録映画である「關東大震大火實況」をご覧いただけます。動画を見て、「100年前の映像なのに何でこんなに鮮明なの?」と驚かれた方もいるかもしれません。

「動画は(通信環境に依存しますが)HDの解像度で配信しているものの、フィルム自体は4Kでスキャンをしたんですね。これは、鮮明な画像を得るためのポイントの1つです。ただ、HDと4Kの差よりも、元素材がどれほどの情報を持っているかの方が、はるかに影響が大きいです」と話すのは、デジタル化の作業を担当した研究員の三浦和己さん。

三浦さんが作業を行う「デジタル検査室」
三浦さんが作業を行う「デジタル検査室」

例えば紙の文書がコピーするたびに文字が粗くなっていくのと同じで、フィルムからフィルムへの複製を重ねるほど、画質は落ちていきます。撮影で使用したオリジナルネガは最も映像がクリアで情報量が多いですが、オリジナルネガから作った“第一世代”のポジ・プリントはそれに次いで鮮やかな映像を保っています。例えば「映像でみる明治の日本」で配信している「小林富次郎葬儀」(1910年)は、110年以上も昔の作品であるにも関わらずオリジナルネガ(国の重要文化財に指定)が残っていた非常に珍しいケースで、“第一世代”のポジ・プリントを素材にデジタル化を行ったため、とてもクリアな映像を公開できました。

「關東大震大火實況」は、オリジナルネガは失われていたものの、大きな幸運に恵まれました。茨城県土浦市のお寺で長年保管されていた第一世代のポジ・プリントを、今回のサイト公開に合わせて、寄贈していただくことができたのです。三浦さんは言います。

「昔は現代のように精度の高い機械があったわけではないので、第一世代のプリントだとしても、画質は悪いものもあった。今回見つかったのはきちんと濃度やフォーカスも保たれた、情報量の非常に多く残ったプリントだったんです。そういう意味では、より鮮明な映像のフィルムを保存・公開するためにはジェネレーションの古いフィルムを探す作業が、一番重要とも言えます。当館の所蔵フィルムに限らず、今入手できる最も古いジェネレーションがどれかを特定していく。そうした調査・研究の蓄積があったからこそ、フィルムの発掘に繋がり、あのような鮮明な映像を公開することができたのかなと思います」

本サイトの構想は、当館が所蔵する日本映画の約65%を占めていながらも、劇映画と比べて上映機会の限られている文化・記録映画やニュース映画を、多くの方に見ていただきたいというところから始まりました。その中で、長い年月をかけて収集を続けてきたコレクションの豊富さとそれに関する情報の蓄積を考えて、関東大震災にフォーカスすることが決まりました。過去の収集活動と調査研究の積み重ねが、サイト開設につながったのです。

動画配信サイトの開設は3回目ではあるものの、「関東大震災映像デジタルアーカイブ」には、初めてのユニークな試みがあります。それは、作品を地名、シーンに基づいたクリップに分割し、クリップごとの検索・閲覧を可能にしたという点です。チームリーダーとしてサイト開設に携わった特定研究員のとちぎあきらさんは、次のようにその意図や意義を話してくれました。

「関東大震災映像デジタルアーカイブ」のクリップ選択ぺージ。現在は64のクリップがある
「関東大震災映像デジタルアーカイブ」のクリップ選択ぺージ。現在は64のクリップがある

「文化・記録映画をどのように魅力あるコンテンツとしてサイト上で見せられるかをチーム内で議論するなかで、そもそも実写映像は現実の空間や時間を切り取って見せるものなのだから、その要素をガイドに、映像から多くの情報を引き出せないか、という案が出てきました。現在の自分に身近な空間が震災時にどういう被害を受けたのか、どういう状況だったのかを知りたい気持ちを持つ人は多いはずで、作品を部分的に切り取って、場所と紐づけて提示する意味は大きいと思いました。クリップに分けたことで、それぞれのディテールを理解できるようになり、同時に、そのディテールを理解していくことが、作品全体がどういう意図で作られたのかをよりよく理解することにもつながっていくのだと感じています」

各クリップのページには、推定される撮影時間から撮影場所、新住所・旧住所、典拠資料、関連資料にいたるまで、さまざまな詳細が記載されています。

どの場面をクリップにするかの判断については、「本作の撮影期間は、地震発生直後から1カ月余りに及んでいますが、この間の重要なフェーズをよりよく描いている場面が欲しかった。同時に、震災後すぐに始まった救助や救護活動には、日本赤十字や青年団など、たくさんの人が従事しました。そういった、震災後の過程における重要な“プレイヤー”たちの活動をきちんと押さえようとも思いました」と、とちぎさん。

さらに、「もうひとつ、災害史家の田中傑(たなか・まさる)先生ら研究者の方が場所や時間の特定について非常に有益な情報を蓄積されたり、関連する資料を明確にさせたりする、そういう成果がより表れているところはクリップとして残したいと思いましたね。例えば、『神田明神高台から万世橋駅方向を望む』と題したクリップがあります。私も何度か見ましたが、どこからどこを写しているのかまったく判りませんでした。ところが、田中先生は当時の写真帖を参照しながら、遠景に映る高架橋や駅、郵便局の焼跡を根拠に、撮影場所を神田明神と特定されたのです。これには正直唖然としてしまいました」とも明かしてくれました。

「關東大震大火實況」(1923年)クリップ「神田明神高台から万世橋駅方向を望む」の一場面
「關東大震大火實況」(1923年)クリップ「神田明神高台から万世橋駅方向を望む」の一場面

映像だけを手がかりに詳細情報を同定していくのは、気の遠くなる調査にも思えますね。長年関東大震災の調査を続けてきた田中さんに、具体的にどのような作業をなさったのかお話を伺いました。

「撮影場所は、地形的に上から見下ろしているのか、平らな場所かといった、映し出された大まかな情報をもとに、初めに可能性のある場所を大雑把に絞ります。道路に路面電車の軌道があればその時点で場所は限られますし、丘が映っていれば上野か九段か愛宕山、といった具合ですね。消去法である程度絞っていければ、そこからは写真資料などを使ってより細かに特定をしていきます。今でも銀座といえば四丁目の和光の建物が映りますが、当時も、ある街を映すときに定番の場所・アングルがありました。私はそうした場所の絵葉書や会社のパンフレット類を資料として収集しているので、それらと地図と組み合わせて検討します。まさに映画と同じ場所が同じアングルで映っている場合もありますし、そうでなくても、住所がある程度絞り込めていれば、地震で倒壊したり火災に遭った建築物に関する調査報告書などと映像に映った建築物の残骸とを照らし合わせて辻褄が合うか、確認することができます。定番の場所でなくても、映っている会社や店の名称がわかれば、電話帳や社史、業界誌などを調べて、という方法もありますね」

調査の軌跡がうかがえる、田中さんの調査ノート。 ページ下部は、クリップ「架線の敷設工事」に関する調査の記録
調査の軌跡がうかがえる、田中さんの調査ノート。 ページ下部は、クリップ「架線の敷設工事」に関する調査の記録
田中さんが典拠資料とした写真「第九圖(燒跡)京橋より銀座通り及丸之内を望む」内田茂文(1923)、大正大震大火之記念、毎日通信社出版部
田中さんが典拠資料とした写真「第九圖(燒跡)京橋より銀座通り及丸之内を望む」内田茂文(1923)、大正大震大火之記念、毎日通信社出版部
典拠資料の写真と同じ建物が写った、クリップ「架線の敷設工事」
典拠資料の写真と同じ建物が写った、クリップ「架線の敷設工事」

また、撮影時間は、当時文部省のもとに設置されていた「震災予防評議会」が作成した報告書に、どの場所が、何時に、どの方角から来た火流によって燃えたかを記録した「東京市火災動態地図」が掲載されていて、それを参考に推定したそうです。火災が起きているクリップの場所が確定していて、どこかに炎・煙が見えていれば、その方角に炎・煙が見えるのは何時ごろかといったように、ある程度絞り込めるのだそうです。

「東京市火災動態地圖 大正十二年九月大震災」(「国立国会図書館デジタルコレクション」より転載)
「東京市火災動態地圖 大正十二年九月大震災」(「国立国会図書館デジタルコレクション」より転載)

田中さんは、「私は都市計画の歴史を専門とする人間です。しかし、映画という他の分野のお仕事を手伝うことで、“どういう人間がそこに映し出されていて、どういう理由でキャメラマンがそれを撮影し、編集の段階でどこを残したか”ということに意味を見出していく、映画研究ならではの視点に触れられて、とても面白かったです」と、当館の新たな配信サイト構築の取り組みに参加してくださった感想を教えてくれました。

「關東大震大火實況」は、さらに多くの方に見ていただけるよう、当館のYoutubeチャンネル(https://www.youtube.com/c/NFAJ_PR)にも動画をアップしています。細かな情報がわかれば、約100年前に起きた大災害に対して、より強くリアリティを感じることができるかもしれません。新住所をたよりにその場所を訪れてみることもできますし、典拠資料や関連資料をたどって、新たな関心を見つけることもできるでしょう。そうして、「関東大震災映像デジタルアーカイブ」というプラットフォームを通じて、映画がきちんと保存されていて、それが自由に体験可能・アクセス可能な状態に置かれていることの意義や価値を感じ取っていただけたらと思います。

田中さんが参考資料として使用した、当時の政府、軍が作成した震災関連の報告書
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