クエストラブ、初監督作へと繋がった「ソウルトレインカフェ」での“出会い”を明かす

2021年8月26日 09:00


「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」のクエストラブ監督
「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」のクエストラブ監督

今年1月に開催されたサンダンス映画祭のオープニング作品として上映され、ドキュメンタリー部門審査員大賞と観客賞をダブル受賞した映画「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」のクエストラブ監督がインタビューに応じ、同作の制作経緯、時代背景、黒人文化の歴史について語ってくれた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)

伝説の音楽フェスティバル「ウッドストック・フェスティバル」が行われた1969年、ニューヨークのハーレムで30万人もの観客を動員した「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」。本作では、同フェスの映像と、参加アーティスト、観客などのインタビューを交錯させている。

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1969年6月29日~8月24日の6回の日曜日に行われた「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」には、若き日のスティービー・ワンダーやB.B.キング、ゴスペルの女王マヘリア・ジャクソンとメイビス・ステイプルズ、当時人気絶頂のスライ&ザ・ファミリー・ストーンなど、全米ヒットチャートを席巻していたブラック・ミュージックのスターが集結。しかし、その存在は50年もの間、封印されてしまっていた。

クエストラブ監督が「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」の存在を知ったきっかけ――それは、日本での出来事だった。

クエストラブ監督「1997年、バンド『ザ・ルーツ』のメンバーとして、最初に日本を訪問した時のことだ。ツアーの通訳者が、僕がソウルミュージックのファンであることを知り『ソウルトレインカフェ』という場所に連れて行ってくれた。そこで、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのパフォーマンスを鑑賞した。もっとも、その映像は、最上階から俯瞰で撮られたようなもの。当時は『ハーレム・カルチュラル・フェスティバル』を見ているとは気づかなかった。60年代の全てのフェスは、ヨーロッパで開催されていると思い込んでいたんだ。当時のアメリカには、文化らしきものがなかったからね」

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クエストラブ監督「それから20年後、今作の製作者デビッド・ディナースタインロバート・フィボレントが『ハーレム・カルチュラル・フェスティバル』をとらえた映像の存在を示し、僕に監督をしてほしいと言ってきたんだ。だから、97年に日本で気づかずに見た映像を、17年に再び鑑賞することになった。その時でも、それが本物映像とは、とても信じられなかったんだ

「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」の映像は、どのようなフォーマットで撮影され、どう保管されていたのだろうか。

クエストラブ監督「通常、1969年に撮影されたものならば、その大半が16ミリで撮影されたものだ。ただ、このフェスを撮影したハル・タルチンは、テレビ用のビデオで撮影を行っていた。映像は、ソープオペラのビデオテープのような質。最も、当時では全く新しいビデオテープではあった。当時のテープのリールは2インチ(5センチ)くらいあって、そのようなリールでは1時間くらい撮影をすることができた。リール缶に入ったものはかなり重くて、なんと17ポンド(7.7キロ)もあったんだ。ちなみに、ハル・タルチンがこの映像を保管していたのは、地下だった。そこは乾燥して、(保管場所としては)とても良い環境だった」

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タルチンはフェスの撮影を終えると、さまざまな媒体に記録映像を売り込んだ。だが、結局、買い手は見つからず。VHSテープ化されるのは、撮影から20年後のことだった。

黒人の音楽と文化を称えるため、フェスの開催&撮影を企画したのは実業家、プロモーターのトニー・ローレンス。クエストラブ監督は「彼と直接、繋がることはできなかった」と明かす。「彼が今でも生きているのか、あるいは死んでいるのか……どこに住んでいるのかもわからなかった。彼の伝説が載った新聞や雑誌を基に足跡を辿っても、見つけることが出来たのは同名の他人だったんだ」と告白した。

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話題は、驚くほど綺麗な音源へと転じた。「まず、今作のサウンドチーム、特にジミー・ダグラスの信用を傷つけるわけではない。彼らは何をすべきかを理解し、その仕事ぶりには全く不満はないんだ。だが、正直に言えば、今作のオーディオについて、実際に手を加えて調整した部分は、全体の約2%くらいだった」と語りだした。

クエストラブ監督「観客が今作で聴いているのは、ドライなラフミックス(レコーディング作業の内容を確認したり、ミックス前に楽曲の完成形をイメージしやすくするために、各パートの音量や定位などを大雑把にミックスした音源のこと)、サウンドボード(パソコンに音源機能を持たせ、音声の入出力を行う場合に用いる拡張カードのこと)、あるいはミックスレファレンス(ほぼ完成間近のミックスと前回制作したミックスを比較したり、同じプロジェクト内の他のバージョンや市販のレコーディングと聴き比べをし、製作中のミックスの質を判断する工程)のものなんだ。それらが完璧な音に聞こえる。しかし、『ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」で使われた12個のマイクがどのように調整されたのか、僕には多分一生をかけても理解することができないと思う」

編集過程については「最初の5カ月間は、自分がどこにいようが、フェスの映像をループで流し続けていた。そんななか、鳥肌が立つような映像を見た時は、それをノートに記していた。そんな場面は約30箇所もあって、僕ら製作陣はそれを基盤に作業を進めていったんだ」と振り返る。

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本作の冒頭で使用されているのは、スティービー・ワンダーのドラム演奏シーン。これは「TikTokのような短い時間で意図を伝える方法で、自身が監督であることを示した」とのこと。さらに「例えば『ザ・ルーツ』のコンサートを訪れた観客が『このショーは本当にすごかった!』と帰宅時に満足気に語ってくれるような演出を、本作のラスト10分間にも施している」と明かしてくれた。

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テレビ放映が行われず、長期にわたって日の目を見ることはなかった「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」。このような“黒人の歴史の消去”について、クエストラブ監督はこのような言葉を述べてくれた。

クエストラブ監督「本作を手掛けることができたのは、一歩前進だと思っている。我々は黒人のメンタルヘルス、歴史の消去について話してこなかった。最近学んだことで衝撃的だったことがある。3~4週間前、ある大学教授からDMを受けとった。そのDMに書かれていたのは、1960年代のニューヨークで行われた別のフェスティバルについて。『撮影された20時間の映像がある』ということだった。ようするに、本作だけでなく、黒人の文化の歴史をとらえたものが、まだ6、7本もあるんだ。だから、本作が残りの作品へのエントリーになればいいと思っている。黒人だけで行われたフェスは、我々の歴史にとっては重要だからね」

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