【「キネマの神様」評論】沢田研二と志村けんさん、揺るがぬ友情が手繰り寄せた魂の邂逅
2021年8月1日 08:00
映画を60年間撮り続けてきた名匠・山田洋次監督をもってしても、通算89本目となる「キネマの神様」がこんなにも苦難続きの作品になるとは当初、思ってもみなかったはずだ。松竹映画100周年を記念して製作された今作は、新型コロナウイルスに感染した主演・志村けんさんの死去、政府による緊急事態宣言発出による製作の長期中断と、撮影の折り返し地点で大きな哀しみと喪失感に包まれたまま立ち止まらざるを得なくなってしまったのだから。
苦境に立たされた山田組を救ったのが、沢田研二だ。若い世代は知らなくて当然だが、志村さんと沢田はかつて同じ所属事務所の先輩・後輩として仲が良く、テレビ番組やラジオ番組で幾度となく共演するなど、長きにわたり友情を育んできた。志村さんが演じるはずだった主人公・ゴウ役のオファーを受けた沢田に、困惑の色がなかったと言えば嘘になるだろう。だがしかし、山田監督をはじめとする製作サイドの思いを汲み、即断即決の様相で志村さんからのバトンを受け取ったと聞く。
原田マハが自身の家族、経験をもとに書き上げた思い入れのある同名小説を原作に、山田監督が松竹らしい“家族”をテーマとした映画へと昇華。菅田将暉が若き日の姿を演じるゴウは、かつて撮影所で助監督として働き何よりも映画を愛していたが、現在では家族にも見放されたギャンブル中毒のダメ親父。50年近く前、ゴウと旧友のテラシンは時代を代表する名監督やスターに囲まれながら、青春を駆け抜けていた。ふたりが食堂の娘に恋心を抱いたことで、運命の歯車が狂い始めていく……。
本編を見るにつけ、志村さんの口から発せられることを前提に“当て書き”されたであろうセリフが散見されるが、そんなことは先刻承知とばかりに沢田はすべてを引き受け、それでいて躍動感あふれるゴウ像を提示してくる。劇中、志村さんが愛した「東村山音頭」を沢田が楽しげに歌うシーンは不意に胸に迫りくるものがあるが、観客は現実世界と物語がリンクする瞬間を目の当たりにすることができるだろう。それにしても、筆舌に尽くし難い志村さんへの思いを胸に多くを語らず茨の道を突き進み、銀幕の中で志村さんと邂逅してみせた沢田の男気には脱帽と形容するほかない。
そして、活況を呈していた撮影所の描写に心躍るのは、山田監督が当時、実際にその場に身を置き、ひたむきに映画製作に取り組んでいたからこそ成せた業で、そこに映り込む名も無き“活動屋”たちの姿も含め見ているだけで心が和む。また、食堂の娘に扮した永野芽郁が実に魅力的で、特筆すべき点として挙げられる。映画監督役のリリー・フランキーに啖呵を切るシーンなど、瑞々しい表情が幾つも切り取られており、今後の出演作に大きく期待を抱かせる芝居であった。
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