【「ジャッリカットゥ 牛の怒り」評論】見た目トンデモ映画、でも実はアカデミー賞インド代表。一体どんな映画??
2021年7月24日 17:00

「バーフバリ」二部作で日本中を熱狂に包み込んだインドから、新たな興奮の波が押し寄せてきました。“暴走牛 VS 1000人の狂人!!”というキャッチコピーがまばゆく光る「ジャッリカットゥ 牛の怒り」です。テンションMAXなポスターデザインから、狂気に満ちたトンデモ映画な様相がプンプンと匂い立つのですが、一方でアカデミー賞国際長編映画賞部門のインド代表というまさかの肩書きに頭が混乱します。一体どんな作品なのでしょうか??
本編は正味90分程度。インド映画のイメージとは真逆をいく短尺です。物語の舞台となるのは、南インドのジャングルにある小さな村。そこでの人々の暮らしが不穏なリズムにのせて描かれる冒頭から、すでにタダモノではない感が充満しています。そして、主人公が誰なのかも判然としないまま進むセオリー無視な語り口に観ているこちらが不安になりかけたところで、暴走牛が脱走。ここからはもう怒涛の展開です。
とはいえ、「バーフバリ」でも世界を驚かせたハイクオリティなインド製CGで暴走牛の破壊行為がド派手に描かれるわけではありません。撮影は本物の牛とアニマトロニクスを駆使して行われており、観客は、目の前で起きているリアルな牛の暴走を目撃することになります。そこに過度なデフォルメがないのが、この作品をただのB級パニック映画ではなく、アカデミー賞出品の傑作たらしめている要因のひとつなのです。
だからと言って、暴走牛の大捕物が興奮や恐怖に欠けるものかと言えば、まったくそんなことはありません。実は、本当に怖いのは1000人の狂人のほうなのです。人知を超えた破壊力を持つわけでもない暴走牛に群がる1000人の人間たちの姿は、人知を超えた恐怖そのもの。それぞれが欲にまみれ、興奮に駆られ、我を失い、わけもわからない何かに衝き動かされながら、暴走牛を追い詰めていきます。そして、ラスト10分で起きる地獄絵図のような結末を目の当たりにしたとき、ようやく合点がいきました。狂気に満ちたトンデモ映画なビジュアルと、アカデミー賞インド代表という肩書きは、少しも矛盾などしていなかったのです。両者の要素が間違いなく、この作品には内在していました。
トラウマ必至の狂気なビジュアルと、人間の本質に対するシンプルにして容赦ない考察。視覚的にも心理的にも、とてつもないパワーとインパクトで衝撃を受けること間違いなしです。こんな映画にはなかなかお目にかかれません。
(C)2019 Jallikattu
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