【「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」評論】この極上の無音は映画館でこそ味わうべき
2021年6月19日 17:00

映画は映像による表現と見なされがちなのだが、映画の構成要素は映像と音である。音は映画演出において、実は映像と同じくらい重要だ。
全米で大ヒットを記録した前作「クワイエット・プレイス」は、そんな音響演出の魅力にあふれた作品だったが、この続編でもそのストロングポイントを見失っていない。大ヒット作の続編だからと過剰なスケールアップもせず、音に反応する「何か」の真相に迫ることもせず、過酷で理不尽な恐怖を描くことにフォーカスし続けている。
音をたてたら死んでしまうという状況を生き延びるために、主人公一家は息をひそめるように生活をする。台詞が極端に少ないことでふとしたしぐさや表情がいかに雄弁かを観客に思い出させてくれ、手話という言語の雄弁さも教えてくれる。
前作は監督自ら演じた一家の父が中心人物だったが、今作ではろう者の長女を中心に物語が進む。家の周辺で展開された前作とは対照的に今回、一家は生存者を探して冒険に出る。外の世界は自宅以上に危険に満ちているが、巧みに無音状態を作って、主人公の体感世界を観客に共有させ、音をたててはいけない環境で音が聞こえないことがいかに恐ろしいことかを描いている。
無音という演出は、映画の音響デザインにおいても特に力強いものだ。日常生活で完全な無音状態というのは、実はめったに体験できない。だが、遮音性に優れた映画館なら無音を体験できる。純度の高い無音状態は、大画面と大音量に匹敵する映画館の重要な魅力だ。本作は、その魅力を改めて教えてくれる作品でもある。
そして、本作のもう一つの魅力である家族ドラマも健在。家族を守るために立ち上がる長女の勇敢さと、幼い命を守る長男と母の戦いが胸を打つ。なぜ襲ってくるのかわからない、理不尽な「何か」は観客にとって大いなる恐怖だが、それに立ち向かう一家は、理不尽だらけの社会に生きる観客に大いなる勇気をもたらすだろう。
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