【コラム:やっぱり、映画館で見たい!第4回】T・ジョイPRINCE品川 花田尚謙支配人
2020年10月8日 14:00
新型コロナウイルスの猛威の影響から、政府による緊急事態宣言を受けて日本全国ほぼ全ての映画館が休業を余儀なくされた。東京都では、休業要請を緩和するロードマップが「ステップ2」に移行した6月1日から多くの劇場が営業を再開したが、全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)が定めるガイドラインに基づき、座席数の50%しかチケットが販売できない状況が長らく続いた。そんななかでも各映画館、働くスタッフたちは、細心の注意を払って来場者を迎えている。
今までの日常が、どれほどかけがえのないものであったかを多くの人がかみ締めているなかで、「これまで通り映画館へ行くことに不安がある」と感じている人がいることも事実。では、映画館は現在本当に安全なのか? 映画館は本当に“3密”なのか? 映画.comでは劇場の運営に携わるうえで最前線を取り仕切る支配人に話を聞き、どのような対策を練っているのか、どのような思いで来場者を迎え入れているのか、現場で働く人々の声を届けていく。第4回は、T・ジョイPRINCE品川の花田尚謙支配人、同社興行部の原晋也氏に話を聞いた(取材日は8月27日)。
T・ジョイPRINCE品川は2016年4月、品川プリンスシネマをリニューアルする形で開館。全11スクリーンで客席数は1986席。同館の際立った特色といえば、品川プリンスホテルの敷地内にあるということが挙げられる。最寄り駅はJRおよび京浜急行電鉄の品川駅で、高輪口の階段を下りて国道を渡れば、そこからでも徒歩3分ほどという立地にある。
これまでは、周辺に競合他社の劇場もなく、駅から目と鼻の先という絶好の立地がアドバンテージにもなっていた。JR東日本が発表している各駅の1日平均の乗車人員では、2019年度では新宿(77万5386人)、池袋(55万8623人)、東京(46万2589人)、横浜(41万9440人)に次いで5位(37万7337人)に入っている。さらに東海道新幹線(JR東海の管轄)の乗車人員が1日平均で約3万7000人、京急も1日平均の乗降人員は19年度で28万5582人を誇っている。
花田氏「品川駅は日本屈指の乗降客数で知られていますし、ニュースで品川駅前の映像ってよく流れるじゃないですか。コロナの状況下にあっては、『品川ってこんなに人いるんだ』というイメージがお客様のなかで定着してしまうと、訪れにくい場所になってしまう可能性はあるかもしれませんね」
ただ、ホテルの中にあるシネコンという立ち位置は、来場者に安心感をもたらしていることも事実のようだ。
原氏「『ドラえもん』の数字を前作対比で見ていくと、都心が軒並み下がっているなかで品川はすごく健闘しているんですよ。プリンスブランドも影響しているんでしょうね、ファミリー層が当館での鑑賞を選んでくださっているのかなという印象があります」
また、品川プリンスホテルと、GoToトラベルキャンペーン割引対象の「#シナプリ♪エンタメパスポート」付きの宿泊プラン(12月29日まで)にも取り組んでいる。これは、同ホテル内のエンタメ施設を楽しむことができる「エンタメパスポート」が1名につき1冊配付されるもの。そのパスポートを使えば、1泊2日のあいだで映画を1回鑑賞できるほか、マクセル アクアパーク品川(2日間で1回利用可)、ボウリングセンター(2日間で2ゲーム&貸靴付きを1回利用可)、高輪ゴルフセンター(事前予約制/2日間で25分打ち放題&レンタルクラブ&レンタルシューズ付きを2回利用可)が対象施設として利用できる。
さらにひとつ、盲点になっていたことだが、同ホテル内に駐車場があることを忘れてはならない。
花田氏「30分500円です。ただ、プリンスホテル内で5000円以上利用いただくと、3時間無料となります。ご家族で来られて映画だけで5000円超えてもOKですし、カップルで来られて映画のあとに食事をされて合計5000円でも大丈夫です。都心で駐車場付きの映画館ってあまりないので、車で動きたい方には需要があるかもしれませんね」
前回の連載(kino cinema横浜みなとみらい)取材時に、コロナ禍でパンフレットの売り上げが異常なほど伸びたという話を紹介すると、同社でも心当たりはあるようだ。営業再開後に感じた変化を聞いてみると……。
原氏「確かに、全国的に見てもフードや物販の売り上げは、良いといえば良いんですよね」
花田氏「コロナ前の混雑していた際のチャンスロスがなくなったことにより、回転が良くなっているという可能性はあります。確かに、以前よりも売れています。ただ、購入マインドが高まっているのかといえば、それは違うような気もします。あまり趣味にお金を使える状況にないため、いつもより何か買おうと思われているのかもしれませんね」
グループとしては、同社が8月28日で創立20周年を迎えたこともあり、「ティ・ジョイ 20TH アニバーサリーキャンペーンを展開している。
花田氏「アニバーサリーキャンペーンというオープン懸賞(10月31日まで)をやっているのと、数量限定のプレミアムチケットというものをキャラクターショップで販売中です。また、毎週火曜日、木曜日は1300円で映画を鑑賞できるKINEZO会員デーというのもスタートしています」(※プレミアムチケットはほぼ完売)
同キャンペーンでは、20周年賞として1日映画見放題の「1Dayチケット(ポップコーン引換券付き)」が抽選で200人に当たる。KINEZO会員デーは火曜日と木曜日が対象日ということだが……、東映の岡田裕介会長の肝入り企画として、頭文字にTを持つ東映とティ・ジョイが、人気お笑いコンビ「チョコレートプラネット」のネタ・TT兄弟とコラボをし、映画界を盛り上げる応援隊長に就任したのが2018年だった。
原氏「KINEZO会員デーは、Tがつく日が安いんですよ(笑)。我々もTT兄弟が頭をよぎったのは確かなんですが、それはたまたまです(笑)。コロナの影響で週末の混雑がなくなった分、平日との差がなくなってきました。平日の夕方に来て下さるお客様も一定数いますし、土日を避けて平日の余裕のある時間に行くという選択肢が以前よりも増えたのかな。そういうこともあって、火曜と木曜に割引デーを設定させていただいたという事情もあります。ネットで座席がどれくらい埋まっているか確認することもできますし、いろんなことを我慢しなくちゃいけない時だからこそ、映画くらい自分の行きたい時間に行こうというライフスタイルが構築されつつあるのかなあという気がしています」
全興連のガイドラインに準じた取り組みを続けていくなかで、配給・配信部門を持つTジョイならではともいえる、独自の取り組みは予定しているのだろうか。
原氏「劇場の営業再開直後は、オリジナルで何かやりたいなと社内でも話をしていたのですが、全興連主体で動かないといけない時期に勇み足をすると、みんなに迷惑をかけてしまうよね……と、トーンダウンせざるをえなかった。ただ、ライブビューイングなど、ちょっとずつ決まり始めています。そして、誰しもがいまはセンシティブになってはいますが、『こういうことは出来ますか?』『こんなことを映画館でやったらどうですか?』という話が、権利元やアーティストサイドから出てくるのかなという雰囲気はあります。舞台挨拶も開催したいけれど、お客様が嫌な思いをせず、なおかつ満足してもらえるものってどんなことだろう? と製作委員会などで議論になる機会は増えてきています。また、積極的に売り出しているわけではないので数は多くないのですが、『全館貸し切りたいんだけど幾ら払えば可能ですか?』という問い合わせがあります。何年かに1度あるかないか程度だったんですが、この数カ月でポツポツとそういう問い合わせが入り始めているんですよね」
さらに、現在の座席稼働に来場者が慣れてしまうことに対する懸念点を挙げる(同館の今週の販売状況は土日が100%販売でドリンクのみ可、平日は50%販売で飲食可)。
原氏「だんだんとこの状況に慣れてきたと思うんです。そうすると逆に、稼働率100%にしたときに違和感というか、ギュウギュウになることへの抵抗感が出るんじゃないかと感じることもあります。両肘シートとか、幅の広い椅子にしている劇場もありますので、そこは改めてPRしていく必要があるかもしれませんね。そして、今後もしそこに需要があるのだとしたら、座席数を減らしてでも幅を広くするのか、衝立を準備するのか、そこは模索していく必要があると思っています」
原氏の話を頷きながら聞いていた花田支配人は、現場の長としての覚悟をにじませる。「コロナ対策はしっかりやっております。弊社は映画鑑賞のできる環境を第1に考え、努めて参ります。劇場内に足を踏み入れていただくと、対策している場面なども分かりやすく見えると思うんです。まずは一度、遊びに来ていただけると嬉しいです」。
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