【ホラー映画コラム】これがヤンデレというやつだろうか。時代を超えて恐怖を振りまく岸田今日子さんの至高の演技
2020年8月15日 21:00
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[映画.com ニュース]Twitterのホラー界隈で知らぬ者はいない人間食べ食べカエル氏(@TABECHAUYO)によるホラー映画コラム「人間食べ食べカエル テラー小屋」では、“人喰いツイッタラー”が、ホラー映画専門の動画配信サービス「OSOREZONE」の配信中のオススメ作品を厳選し、その見どころを語り尽くす! 今回は、怨念こもる昭和の名作「この子の七つのお祝いに」をご紹介。
終戦から数年ほど経った頃。もうすぐ7歳になる麻矢は、古びたアパートで母親の真弓と2人暮らしをしていた。麻矢は真弓に毎日毎日アルバムを見せられては、「自分たちを捨てた父親を恨み、いつか復讐を果たしなさい」と教え込まれていた。それから30年以上経った頃、東京のとあるマンションで池畑という女性が何者かに惨殺される。この事件に食いついたルポライターの母田は、後輩記者の須藤と共に独自に調査を進めていくが、そこには想像を絶する恐ろしい真実が待ち受けているのだった……。
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斉藤澪の同名小説を映像化した作品。監督は「エデンの園」「大地の子守歌」等を手掛けた増村保造、キャストには岸田今日子、岩下志麻、杉浦直樹、根津甚八など錚々たるメンバーが名を連ねている。
本作のジャンルは一応ミステリーになるのだが、その中身はというと、殺人トリックの種明かしや犯人の正体よりも積もり積もった人の業や恨みが引き起こす地獄の人間ドラマに比重が置かれている。殺人事件そのものではなく、その事件の発端となった30年以上前のある出来事が最大のキモとなる。数十年にも渡る人の恨みの連鎖を丁寧に描いたストーリーは下手なホラーよりよっぽど恐ろしく、確かにこれをリアルタイムに映画館で観ていたらしばらく夢でうなされていただろうなと思う。また、陰惨な展開に合わせてか画作りや演出もホラー風で、それが余計に恐怖を引き立たせている。そして、最も特筆すべきは役者陣の情念のこもった演技。これが凄まじい。中でも岸田今日子さんが強烈な印象を残す。
物語は殺人事件が起きる30年以上前から始まる。ここに登場する真弓を演じるのが岸田さんである。アパートの一室で、真弓が幼い娘に父親の映るアルバムを見せながら、まるで絵本でも読み聞かせるかのように「全部この人が悪いの、お父さんを探して復讐してね」と話す。病弱であまり長くは生きられない彼女は、己が持つ全ての怨念を娘に受け継がせることで、自分を捨てた夫へ復讐を果たそうとしていたのだ。この怨念教育が後の凄惨な事件に繋がっていくこととなる。そして、このパートで岸田さんが見せる演技がマジで怖い。無表情のままいきなり針を手に取ってアルバムの夫の顔をブスブスブスと連続で刺すのである。ここは本当に背筋が凍る。こんな恨みの表現があるのかと。あまりにも突然かつナチュラルに針を刺すので、最初は事態が呑み込めず、思わず身体が固まってしまった。
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でも、これはほんの序の口。物語の終盤で事件の真相が明らかになるとともに、遂に岸田さんが本領発揮するシーンは、もうなんか見てはいけないものを目の当たりにしている気分になる。彼女が登場するのは過去パートのみで、その出番は決して多くはないが、登場シーン全てがメガトン級に恐ろしく、メインキャラを余裕で喰う存在感を見せつけている。登場するたびに鳥肌モノの戦慄演技を見せてくるので、次第に彼女が映り込むたびに反射的に身構えるようになってしまう。パブロフの犬ならぬ岸田の犬状態だ。彼女は、決して怒りを面に出すことはしない。声も荒げないし、暴言も吐かない。なのに、腹の底に渦巻く真っ黒い感情をこんなにも見事に表現しきっている。これがヤンデレというやつだろうか。時代を超えて恐怖を振りまく至高の演技である。少なくとも、大根と豆腐をトラウマ発生装置に替えることが出来るのは岸田さんくらいだろう。
そして、この岸田さんの壮絶演技と共に描かれる大オチがまた最悪でしてね……。本当に心の底から参ってしまう。あまりにも救いがない。岸田さんも凄いが、人の精神を暗黒に引きずり込む脚本も秀逸だ。すべてが終わった後に鳴り響く童謡「とおりゃんせ」があまりにも物悲しい。これって聴いたら死ぬタイプのやつだっけ?と思ってしまう。
戦後の混沌と数十年もの長きにわたって蓄積された恨みの恐怖を、今ではとても作り出せないような空気の淀み切った映像と役者陣の魂を削る演技と共に見せる名作である。今観てもその邪悪さが色褪せることはない。本作が配信ラインナップに加わったことで、OSOREZONE全体の恐怖度もかなり引きあがったと思う。本作を観れば体感気温が下がること間違いなしですが、副作用で大きな大きな心の傷ができるので注意してくださいね……。
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