【佐々木俊尚コラム:ドキュメンタリーの時代】「ドルフィン・マン ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ」
2019年11月30日 15:00

1988年のリュック・ベッソンの大ヒット映画「グラン・ブルー」のモデルになったことで有名なフランス人ダイバー、ジャック・マイヨールの人生を描いている。
「グラン・ブルー」はカルト的な人気で有名な作品で、母国フランスでは大ヒットした。しかし日本では当初「グレート・ブルー」というタイトルで上映されたがまったく流行らず、あっという間に打ち切りになってしまった。翌年になってから口コミで話題になり、今はなき六本木の伝説的なレコード店「WAVE」でビデオカセットがバカ売れし、そこから一気に盛り上がっていった。
私はブームになったころにレンタルビデオで観た記憶があるのだけれど、「静謐で精神性の高い作品」という印象があった。たしかに有名なラストシーンはそうだ。自分の子を身ごもった恋人ジョアンナを置いて、深い夜の海へと降りていくジャック。彼に「Go and see my love」と伝えるジョアンナ。
しかし今回、あらためて「グラン・ブルー」を再見してみると、全体としては1980年代的なロマンチシズムと多幸感に溢れた作品であることに気付かされる。
そう言えば、こういう批判もあった。――ジャック・マイヨールは「グラン・ブルー」では物静かで控えめで、求道的な青年として描かれているけれど、実際には饒舌で自己主張が強く、怒りっぽくて毀誉褒貶の激しい人物だったと。映画は美化しすぎだと言われてきたのである。
しかし本作「ドルフィン・マン」では、「グラン・ブルー」でのフィクショナルな理想型とも、実際には怒りっぽい面倒な人だったという評価とも、まったく異なるジャック・マイヨール像が描き出されている。
ジャック・マイヨールは1976年、49歳のときに人類史上初めて素潜りで100メートルの潜水に成功している。本作ではその偉業を達成するまでに彼がどのような道のりをたどったのかを丁寧に追いかけている。子供のころに日本の海で海女の素潜りを見たことが、ダイバーを目指すきっかけになったこと。そのころから彼は日本との縁が深く、日本人の友人も多く、禅寺における座禅を経験したこと。そしてヨガで呼吸法を学んだこと。これらの要素が、息を止めたままの長い潜水に力を添えたのだった。
21世紀に入ってから、パルクールやウィングスーツ、スカイダイビング、フリークライミングなどのエクストリームスポーツが注目されるようになった。これまでの常識ではまったく測れないような、人間の限界を越えた能力が発揮されているこの分野の広がりを見ていると、身体的な能力がここに来て急速に拡張している感さえある。
それはあくまでひとりの戦いであり、自分という個人の精神と肉体への徹底的な向き合いである。トーナメントを戦って優勝を目指すチームスポーツが近代の成長の時代の産物だったとすれば、エクストリームスポーツは近代以後の新しい時代精神を象徴しているようにも見える。そういう視点から捉え直せば、ジャック・マイヨールはまさにエクストリームスポーツの精神の先駆的存在だった。2017年に製作された「ドルフィン・マン」の狙いは、まさにそこにあるように思える。
本作ではジャック・マイヨールの俗っぽさや悲しい最期などももちろん描かれているのだけれど、ストーリーの中心はそれらではない。彼の性格がどうだったかなどはどうでも良く、とにかく「なぜあれほどまでに海に向き合い、潜り続け、自分の限界ぎりぎりにまで挑戦したのか。そして彼はそれをどう成し遂げたのか」ということを描き出すことに注力されているのだ。
それは古い時代のロマンチシズムではない。21世紀といういまの時代の精神性と身体性を、不世出のダイバーを題材にして描き出そうとしているのだと思う。
「ドルフィン・マン ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ」は11月29日から、新宿ピカデリー、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開。
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