劇場版「Gレコ l」が描くリアリティは“未来へのメッセージ” 富野由悠季総監督が明かす
2019年11月28日 20:00
[映画.com ニュース] 「劇場版 Gのレコンギスタ l 行け!コア・ファイター」の2週間限定上映が、11月29日からスタートする。2014年のテレビシリーズ「Gのレコンギスタ」の放送から約5年の歳月を経て再始動した「G-レコ」に託す、“世界の子どもたちに送る未来へのメッセージ”とは何か。総監督を務める、「機動戦士ガンダム」の産みの親・富野由悠季に聞いた。(取材・文/黒峰澄一)
富野:もちろんそうです。ですが、それはちょっと違いまして、映画というものは、もともとそのように作られていなければいけないのだけれども、テレビ版はそうではなかったという反省がありました。「映画としてお話をまとめられるように作った」という、それだけのことです。そのためには、テレビ版のきちんと流れていないところを、正してあげる必要がありました。部分的にカットの積み重ねがよくない、と思えるところの改善をしていったので、大々的に変わった気持ちがあるわけではないのですが、「行け!コア・ファイター」は見やすくなって“映画になった”と言えると思います。
富野:「∀」には“ガンダムを総括する”という意気込みで取り組みましたが、ガンダム20周年という気分のなかで、そこまで全体を俯瞰できるものではなかったという反省がありました。そこから抜け出すために「OVERMAN キングゲイナー」をやったのですが、それでもダメだったという後悔もあります。それから約10年間、アニメの仕事をやらなかったんです。そうすると、「少しは垢抜けたかな」という気分も出てきて、今なら“脱ガンダム”ができるのではないかと仕掛けていきました。「機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)」のような新作が連綿と作られ続けているという土壌があったからこそ、できたことです。それがなければ“脱”もないですからね。そんななかで、僕は年長者であるからこそ“脱”を見せておきたかった。新しい時代に向き合うことを考えたときに、ドリルで穴を開けるようにして「ガンダム」を突き破っていく必要があったので、それは過酷な作業だったですね。
富野:「G-レコ」は徹頭徹尾リアルの延長で設定を考えています。巨大な2本脚のロボットなんてありえないことですが、それが存在できるように、キッチリと設定を固めていきました。そんな途方もない存在を動かすだけのエネルギー、それを制御できるアイデアがあれば、ロボットが存在してもおかしくないだろうと。絵空事を成立させるための設定は、現実に即したものにしています。『G-レコ』では、「宇宙開発に取り組むには、ここまでの技術が必要だ」ということを盛り込んでいます。「行け!コア・ファイター」にも出てくる“水の玉”は、その最たるものです。小さなカプセルに膨大な量の水が圧縮されて詰まっているのですが、宇宙で人が暮らすには水や空気は不可欠。そういったものが製造できなければ、宇宙進出なんて夢物語です。
軌道エレベーターにしてもそう。交通機関、つまりインフラにしなければ、3~7万キロのテザー(ケーブル)なんて引けません。しかし、交通機関にするには、意味がなければいけない。行った先に何かがあって、それを運んでくることでお金儲けができる、という保証がなければケーブル1本引けないのが現実です。そうした理由で「G-レコ」の軌道エレベーターは“キャピタル(資本)・タワー”という名前にしました。ところが、ここに思いいたらないのが、いま実際に宇宙エレベーターを作ろうとしている人たちです。
富野:“洗い出した”というより“並べ立てた”、というほうが正確です。光子を圧縮したフォトン・バッテリーのような技術も、リアルに考えればバカバカしいのですが、宇宙開発の目的地を考えれば、その逆算として必要になってきます。フォトン・バッテリーを生み出す集団が月の向こう側にいる、ということにしたのにも意味があります。エネルギーというのは、地球が内包しているものを除けば、太陽光しかありません。20世紀までの人類は炭と薪、そして太陽光だけですべてをまかなってきましたが、今は電力という摩訶不思議なエネルギーで日々の暮らしを運営している。そうして経済は拡大、ではなく肥大してしまい、地球の容量に見合わなくなってきているのかもしれない。本来、自然から生み出されるエネルギーを利用するくらいが適当なのに、我々は原発で作られたエネルギーですら自然のものだと思い込んでいるフシがある……。
ところが、こんなバカなことをやっていては、地球はもたないんだということを言っても、21世紀までの知識と教養でがんじがらめになった大人たちは、次のステージには行けない。だから、ぜひ20代前半以下の若い世代に見てもらいたい。解決策を見いだせなかった年寄りとしては、若い世代に“預ける”ことをしたい。僕が気づいた問題点は「G-レコ」を見ていただければわかりますから、と。次の世代の若い力が、この逼塞感を切り開いていくところを見つめていきたいし、「G-レコ」が、そうした子どもたちを生み育てる引き金になればいいなと思っています。こうして、現実について考えていることを「G-レコ」を通じて伝えることができるのだから、「ロボットもの」というジャンルもここまで来ました、と僕自身はうぬぼれています。我ながらすごい作品を作れました(笑)。
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