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「ユートピアの喪失が不安を生む」学園ホラーをひっさげ気鋭フランス人監督が来日

2019年10月14日 20:00

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セバスチャン・マルニエ監督
セバスチャン・マルニエ監督

[映画.com ニュース] フランスの学園ミステリーホラー「スクールズ・アウト」が、特集上映「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2019」で上映される。メガホンをとったセバスチャン・マルニエ監督が、フランス映画祭2019での日本初披露に合わせて初来日し、社会問題を巧妙に絡めた本作を語った。

名門中学校に赴任した教師のピエール(ロラン・ラフィット)は、前任教師が自殺した、成績優秀者のクラスを受け持つことになる。頭脳明晰ながら冷淡で反抗的な生徒6人が危険なことを企んでいると確信し、彼らの悪意に翻弄されながらも計画を阻止しようとする。

――2016年の「欲しがる女」で映画監督デビューするまでの経歴を教えてください。

「小さい頃から映画をつくりたいという気持ちはありました。その前に寄り道とでも言いましょうか、美術や絵画の勉強をしました。世界共通だと思いますが、映画の1作目を監督するのは非常に難しいんです。映画の企画を練りながら、官能小説を書いたり、アングラ演劇の脚本を書いたり――これはフランスでは人気が出ました、フランスのテレビ局でアニメ制作に携わったりしました」

「表現方法は違うけれど、言いたいことはいつもひとつだったと思います。リベラルな視点で、社会はときに凶暴性をはらむということを表現してきました。様々な職を経たからこそ、最初の映画作品が豊かになったのではないかと思います」

――原作小説で魅力に感じた部分や映画に生かした部分は?

「子供たちがおかしくなってしまうホラーやジャンル映画がもともと好きなんです。大人と子供の対立や、子供たちが非常にニヒリストである部分は原作から変えていません。小説で特に気に入ったところは、学校での出来事を軸にしている部分。知らないうちにどこから来ているかわからない何かに侵食されているというスティーブン・キングのような雰囲気も好きだったので、それも残しました。それと色々なジャンルが混ざっているところも気に入っています」

――現代社会に幻滅している劇中の少年少女たちに共感しますか?

「私はもう思春期ではないので、それほど共感はしていないし、彼らのロマンティックな部分は持っていないと思います。でも、どこに進むべきかという指針がわからないというところは共通しています」

「環境問題が待ったなしの状態なのにこのままでいいのか、さらにどういった未来を子供たちに残せるのかといったことは常に懸念しています。この作品では、手遅れになる前に、2つの世代がお互いに手に手を取り合って環境問題に取り組んでいけば何とかなるかもしれないというモラルを描きました」

画像2(C) Avenue B Productions - 2L Productions
――劇中に描かれる原発は堕落した世界のシンボルなのですか?

「そうですね。フランスにも老朽化した原発が多くあり、将来的に何か起きてもおかしくないので、フランス人もすごく関心を持っている問題なんです。原発だけではなく、動物虐待のアーカイブなどを使って、今実際に起きている世界の悲惨な状況を見せました。それには、私たち人間が地球に対していろいろと無理に飲み込ませてきたから、今度は地球が私たちに対して吐き出しているそういう意味があるんです」

――恐怖や悲劇の元凶は何だと思いますか?

「私はいま42歳ですが、私の世代から政治に対する展望が変わったと思っています。以前あった共産主義・資本主義・リベラル主義(の対立)で、リベラル主義と資本主義が勝ったという見方ができますが、それは『どこを目指せばいいかわからない』ということでもあると思います。理想郷、ユートピアが失われたことが、現代の不安につながっているのではないでしょうか」

「世界的に普遍的な価値がなくなったことで、みんなが『自分や自分が属しているコミュニティさえよければいい』と思うようになったと感じています。作品の中でも、暴力的な社会になっているために大人達がサークルを作って内輪だけで楽しむシーンがあるのですが、理想郷が失われたことで人々が内向的になっているのかもしれないですね」

根っからのジャンル映画好きで、今後は女性主人公のリベンジスリラー映画や、ゾンビの本格ホラーシリーズを予定しているマルニエ監督。フレンチホラーの十八番ともいえる過激なバイオレンス描写を使わずして幾層もの恐怖のレイヤーを描く手腕を目撃してほしい。

スクールズ・アウト」は、東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで開催中の「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2019」で上映される。

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