「シップ・イン・ア・ルーム」監督&キャストが語る 映画とは……
2017年11月5日 14:00

[映画.com ニュース] 創作のインスピレーションを失ったカメラマンが偶然知り合った女は、家がなく、心を病んだ弟を抱えていた。3人は奇妙な共同生活をはじめる。トラウマから外界に出られない弟を癒すべく、カメラマンは一計を案じる――。ブルガリアのNATFIZ(国立演劇映画芸術アカデミー)で演出を学んだ監督リュボミル・ムラデノフは、ドキュメンタリーを多く手がけ、本作は日常にはびこる孤独や恐怖などのリアクションだとコメントしている。
――この作品はどんなアイデアから生まれたのですか。
リュボミル・ムラデノフ監督(以下、ムラデノフ監督):最初に考えたのは、非現実的な世界をできるだけリアルに伝えたいということでした。起こる確率が低くても、よく考えるとありえるようなストーリーを発想したわけです。
――カメラマンを主人公にしてというのは、最初から発想されていたのですか?
ムラデノフ監督:カメラマンという視点、発想は実は後から思いつきました。最初に考えたアイデアは、治療できない内に籠った登場人物の状況を、どうすれば脱出できるかということでした。人間は日常生活では誰もがそれぞれの世界に入ってうつむいている。でも、何かのきっかけによって、日常から脱出することは可能ではないか……、これが作品のはじまりでした。
――心を病んだ弟の、外への興味を喚起するために外の世界の映像を室内で映し出すシーンが感動的でした。最初からの発想でしたか。
ムラデノフ監督:個人的な意見ですが、映画の撮影というのは、何かの芝居をみせるためのものではなく、世界を映すためのものだと思います。鬱病、ひきこもりを治そうとするカメラマンの選択、この世界の映像を見せるということが、このストーリーの中心なのです。描きたかったのは現実そのものです。登場人物が現実と向き合って、それを乗り越える可能性を考えました。
――リアルな現実を描く語り手として、カメラマンがふさわしいと発想されたのですか。
ムラデノフ監督:実際に戦場カメラマンに会い、キャラクターのベースにしたのですが、あくまでイメージに留めました。インスピレーションを失うことは誰にでも起こりうることです。普遍的な意味も考えてキャラクターに反映させました。
――役を演じてどんな感慨をお持ちになりましたか。
ツベタン・アレクシエフ:監督とはこれまで2本の短編作品で仕事をしましたが、この作品では多くの指示が出され、私の演技は制限がかけられました。自由に演じることも大事ですが、同時に監督の考えを知ることが肝心です。私のキャラクターは写真家で、その目を使って周りの世界を取材しています。私の演技も、他者から見てどのように映っているのか。監督の指示が私の演技の方向性を決めてくれました。
――イバン・ディミトロフさんは心を閉ざした役をどんなアプローチで演じましたか。
イバン・ディミトロフ:私はもともと俳優ではないので、演技そのものは難しいとは思いませんでした。撮影されたのは8月でしたが、当時、母親が自殺をして、私はとても深い鬱になっていたのです。その気持ちを演技に生かすのが私の役目となりました。
――お母様が自殺なさったことを監督はご存知なかったのですか。
ムラデノフ監督:撮影時には詳しいことは知りませんでした。最初に彼と会ったときに、ブルーな気持ちが伝わってきたので、この役がぴったりだと思いました。
――冒頭の、入り口が小さくなるまでトンネルの中というシーンが印象的でした。主人公たちを象徴しているようでした。
ムラデノフ監督:冒頭のシーンは映画のストーリーが進む視点であり、インスピレーションを失った主人公の内面を表しています。
――続くスーパーマーケットの新規オープンのシーンも殺伐としていて衝撃的でした。
ムラデノフ監督:あのシーンはニュースをもとにつくりました。例えばフランスやドイツの大手企業がブルガリアで店舗を開くとき、値引きを売り物にします。年金が僅か1万円のブルガリアの高齢者は必死に商品を手に入れようとするのです。これが厳しいブルガリアの現実です。ただ、現実として紹介するのではなく、どうすれば登場人物が現実を乗り越えることができるのかを考えながら、挿入しました。目的はその現実を超えることです。
――最後にブルガリア映画界の置かれている状況について監督からコメントをいただきたいと思います。
ムラデノフ監督:ブルガリアの映画は、確かにヨーロッパの映画から影響を受けて変わってきました。よりグローバルな方向に向かっています。ただブルガリア映画は何なのかという定義が出しにくいのです。多種多様で、そこが面白いと思っています。
(取材/構成 稲田隆紀 日本映画ペンクラブ)
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