「作家、本当のJ.T.リロイ」ローラ・アルバートが来日「アートの領域で考えると、事実かフィクションかは関係ない」

2017年4月8日 08:00


現在の心境を赤裸々に語ったローラ・アルバート
現在の心境を赤裸々に語ったローラ・アルバート

[映画.com ニュース]1996年に女装の男娼となった過去を綴った自伝「サラ、神に背いた少年」で時代の寵児となった謎の天才美少年作家は実は架空の人物だった……というセンセーショナルな事件をひも解いたドキュメンタリー「作家、本当のJ.T.リロイ」が公開された。10年もの間J.T.リロイに物語を語らせたローラ・アルバートが来日し、本作と現在の心境を赤裸々に語った。

ガス・バン・サント監督は、J.T.リロイの才能にほれ込み、「エレファント」の脚本を依頼。2作目の著作「サラ、いつわりの祈り」はアーシア・アルジェントによって2004年に映画化された。しかし、2006年ニューヨーク・タイムスが、J.T.リロイは存在せず、小説はローラ・アルバートという40代の女性によるフィクションだったと暴露した記事によって事態は一変する。

時代の寵児としてもてはやされた狂乱の時代、そして事実が明るみに出てからを振り返ると「時々夢みたいに思うのよ。本当に私がやったの?って」と率直に語る。「出産って、これが私の体から出てきたの?っていう感じを味わうものだけど、アーティストが作品を作るときも同じだと思うの。2005年に『サラ、いつわりの祈り』のプロモーションで来日したときは、私はJ.T.リロイのマネージャーとして来たの。インタビュワーも誰も気がつかなかったわ」

「もしかしたら神様みたいな存在があって、(J.T.リロイの出来事は)私自身になるための準備をさせていたのかも。だから、今のほうがより豊かな経験をしているの。あの頃は、もし男だったら、木製のコンドームをつけてセックスしているみたいな感じかしら。今回は私自身として来て、正直な経験をしたいと思っているの。だからお互い提供しあえるものはもっと豊かだと思うの」

左が過去のアルバート
左が過去のアルバート

今回、ジェフ・フォイヤージーク監督にドキュメンタリー制作を許可した理由をこう語る。「彼の過去の作品を見ても、センセーショナリズムにとらわれていない人だと思ったの。監督はアートと狂気が交差する地点に興味があったようで、彼だったら信頼できると思ったの。私には真実を語る十分な素材があったし、相手を信頼できればそれを全部与えてもよいと思ったのよ」

ハリウッドではJ.T.リロイになりすました、アルバートの義妹サバンナ・クヌープをクリステン・スチュワートが演じる新作映画の企画も進行中。アルバートがアーティストとして、米国のカルチャー史に残るセンセーショナルな事件を巻き起こしたことは紛れもない事実だ。そして、アルバート自身が過去に負った虐待というつらい体験を執筆によって昇華することがその原動力だった。

「何と言われても、私の本に興味を持ってくれるからいいわ。私は他人に、気にも留められなくなるのが一番の恐怖なの。私はスポンジと同じでどんなことも吸収しちゃうから、ある時点で搾り出すために、何かをしなければならなかったの。他人とつながれる方法、それが執筆だったのよ。人に自分の苦しみを話すと、それは単なるニュース。でも、ひとりの苦しみをよいアートにすることが出来たら1000人が死んだということをただ伝えるよりも、パワフルで、世の中を変えることが出来ると思うの」

「世の中にはいじめや心身への虐待についてみんなが沈黙しているという冷酷さがあると思う。いつも不思議なのが、どうしてみんな他人を思いやれないのだろうということ。トランプ大統領みたいな人が登場したり。私がこの世に存在する理由があるとしたら、書くことによって、人々を目覚めさせて、他の人を思いやりなさいと伝えるためだと感じるわ。本を書くってことはそれなりの技量がいること。アートの領域で考えると、事実かフィクションかはあまり関係ない。それについては審判を下さなくてよいと思うわ」と持論を語った。

作家、本当のJ.T.リロイ」は、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほかで公開中。

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