「私たちは変化を求めるべき」ケン・ローチ、2度目のパルムドール受賞作を語る
2017年3月17日 17:00

[映画.com ニュース]第69回カンヌ映画祭で「麦の穂をゆらす風」に続く2度目の最高賞パルムドールを受賞したケン・ローチ監督の新作「わたしは、ダニエル・ブレイク」が3月18日から公開される。イギリスの複雑な制度のため満足な援助を受けることができない、病を患った老大工と2人の子を抱える若いシングルマザーの交流を描く。貧困に直面した人々の声にならない声をすくい取った本作について名匠が語った。
イギリス北東部ニューカッスルで大工として働くダニエル・ブレイク。心臓病のダニエルは、医者から仕事を止められ、国からの援助を受けようとしたが、複雑な制度のため満足な援助を受けることができないでいた。シングルマザーのケイティと2人の子どもの家族を助けたことから、ケイティの家族と絆を深めていくダニエル。しかし、そんなダニエルとケイティたちは、厳しい現実によって追い詰められていく。
本作の主題として、今イギリスで実際に起こっている社会問題を取り上げた。「脚本家のポール・ラバティと私は同じような話をいく度も耳にしていました。暖かい部屋か食べ物か、どちらかひとつを選ばなくてはならない人たち、生活保護をすべて失って生きていけなくなった人たち、屈辱のあまり自殺を図る人たち、その他にも実にたくさんの話を聞きました。そこでリサーチを始めた結果がこの映画です」
昨年のカンヌ映画祭では2度目の最高賞、パルムドールを受賞。そして本作はこれまでのフィルモグラフィーで、イギリスで一番のヒットを記録した。「私たちにとっては小さな作品ですから、大きな驚きでした。これまでにはない反響です。その理由はおそらく、特にヨーロッパ全土で、そしてたぶん日本でも、人々が同じ状況に苦しんでいるのに、誰もそれを話題にしてこなかったからではないでしょうか。真のポリティカルコレクトネスとは自由市場に楯突かないこと、などと言う人がいます。私たちを殺しつつあるのが自由市場なのに、それを指摘するのは『政治的に正しくない』のです。誰も口に出さなくとも、この映画が証明しています。自由市場は私たちを殺す、私たちはそれを変えなければならない、ということを」

労働党党首のコービン議員が国会で本作を取り上げたことも話題となった。イギリスの政策や政治にどのような影響を与えたのだろうか。「この映画が及ぼした影響があるとすれば、それは現政権やその政策に対して運動を起こしている人たちを鼓舞したことだけだと思います。抵抗運動の後押し、それだけです。そして変化を起こすには政権の移行が欠かせませんから。今の政府が権力を持っている限り、何も変わりません。極右、反労働者階級の政権は、貧困者をさらに極貧に陥らせることであらゆる問題を解決したように見せるのは分かっています。ですから政府を変えるしかないのです。この映画に影響力があるとすれば、その変化の促進剤ということになるでしょう」
デビュー作「キャシー・カム・ホーム」から50年という月日が経ったが、一貫して労働者に寄り添う作品を発表し続けてきた。「特に駆け出しの頃はたくさんのことを学びました。若い頃はたくさん学習し、様々な影響を受けながら、自分の仕事のやり方を見つけていくものでしょう。私は誰のために働いてきたか、それはずっと変わっていないと思いたいです。『どちら側に付くのか?』という古くからの難しい問いに、『私は常に同じ側にいる』と答えるようでありたいです」
そして最後に、日本の観客へこうメッセージを寄せる。「本作で起こる出来事と、日本でも起こっていることの間にある共通点に気づいていただければと思います。先進工業諸国ならどこでも、似た問題に苦しんでいるのではないでしょうか。政治的には、資本主義経済を支持する政府を持つ国々は、労働者階級を今いる場所に留まらせる手段を編み出します。貧しく、助けが必要な人々を痛めつけるシステムがその一例です。英国の政府はその残忍性を分かっていてやっています。その施策がどのような結果を招くか、政府は完全に認識していますし、日本にも同じ状況が見られるかもしれません。もしそうであれば、私たちは変化を求めるべきです。でも今しばらくは、ケイティ、ダニエルやその他の登場人物たちと知り合いになってください」
「わたしは、ダニエル・ブレイク」は、3月18日からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで公開。
(C)Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2016
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