テロが日常化するフランス、映画界への影響は?
2016年7月30日 16:30
[映画.com ニュース] 7月14日の革命記念日にニースで起こったトラック暴走テロのショックは、いまだフランス全土を覆っている。本来なら、7月のこの時期はバカンスで国民が浮かれムードにあるはずで、実際パリからは例年通り人が減り始めているが、気分的にはとても無邪気に楽しめない。当日の警備体制の責任問題を巡って仏治安当局では内紛が起きているし、と書いているそばから今度はパリ近郊の都市、ルーアンの近くの教会がジハーディストに襲われ、高齢の神父が殺された、という痛ましいニュースが入って来た。悲惨なことだが、いまやヨーロッパではテロが日常化しているのは否めない。
昨年11月のパリ同時多発テロのときと同様に、今回も映画界にまで影響が出ている。ニースの事件直後に、前日公開になったばかりのイドリス・エルバ主演の「Bastille Day」が打ち切りになった。本作は、パリの革命記念日(英語だとバスティーユ・デイ)に、スリに長けた青年が熊のぬいぐるみの入ったバッグを盗んだところ、じつはその熊には爆弾が仕掛けられていた、という物語。あまりに現実とシンクロしすぎているゆえに、気の毒ながら打ち切りも頷ける。
もっとも、夏休みの娯楽映画の目玉の1つである「インデペンデンス・デイ リサージェンス」は、予定通り20日に公開され、同日公開のスピルバーグの「BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント」を抜いて首位にたった。こちらは戦争といっても人類対宇宙人で、SFという括りゆえに現実感がないからだろう(個人的には、シャルロット・ゲンズブールが出ていることにとてもミスマッチ感を覚えるけれど)。
近日公開作品のなかでかなりきわどいと思えるのは、ベルトラン・ボネロ監督の新作「Nocturama」だ。ニック・ケイブのアルバムから引用された題名は、いわば夜のパノラマを意味するとか(動物園で夜行動物のいるゾーンを示す言葉でもあるという)。人種も家庭環境も異なる若者たちのグループが、パリのデパートを標的にテロを仕掛けるというもの。もっとも、ジハディストを描いて昨年公開延期になった(このコラムでもご紹介した)「Made in France」と異なり、これは特定の人種や宗教を扱ったものではない。と同時に、映画ではなぜそんなことが起こるのか、キャラクターたちの心理的な説明も省かれ、観客はひたすら彼らの行動を見守るしかない。
ボネロはこうした作品を撮った理由をこう語る。「映画監督として、僕はジャーナリストや社会学者や歴史家の替わりをしようとは思わない。僕の目的は現実を解読することでも解説することでもない。それにミステリーはシネマの一部だ。僕は説明も正当化もできないことを論理的に解明するつもりはない。“それ”は起こりえる。新聞を開いたり、街に出てそこにある明らかな緊張感を察知すれば納得できるはずだ。だからこの映画では、一切の前置きを省いた」
劇場公開は8月31日の予定で、配給側は今のところ変更する見通しはないという。ちなみに「Made in France」は、今年4月にDVD化されると同時に、いくつかの劇場でひっそりと上映される程度に留まった。果たしていまの状況が、今後映画の興行にどれだけのしわ寄せをもたらすのか、あるいはもしかしたら、作られる映画の内容や作風にすら影響が出てくるのではないか、という懸念を抱かずにはいられない。
最後に、ニースの事件現場となったプロムナード・デザングレについて一言。ここは観光スポットとしても有名だが、映画の舞台としても煩瑣に登場している。有名なのは、ジャン・ビゴの短編「ニースについて」や、ジャック・ドゥミの「天使の入り江」。とくに後者は、タイトルロールでミシェル・ルグランの音楽にのってジャンヌ・モローがプロムナードを闊歩する様子をドリーバック(カメラが後退)で捕らえた長回しがあまりに印象的。ホテルネグレスコも映り、いま見るとなおさら深い感傷を禁じ得ない。(佐藤久理子)
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