「帰ってきたヒトラー」主演俳優オリバー・マスッチが役作りに使った“21世紀ならではのもの”とは?
2016年6月18日 12:00
[映画.com ニュース]現代にタイムスリップした独裁者アドルフ・ヒトラーが、彼をモノマネ芸人だと勘違いしたテレビマンにスカウトされ、その力強い扇動で再び民衆の支持を集めてしまう。ドイツ国内で約250万部を売り上げた人気小説を映画化したブラックコメディ「帰ってきたヒトラー」(公開中)で主人公ヒトラーを演じたドイツ人俳優オリバー・マスッチが来日し、表現の自由の尊さとそれをはばむ“不謹慎狩り”に警鐘を鳴らした。
1968年、ドイツ生まれのマスッチはベルリン芸術大学を卒業後、主に舞台を中心に活躍してきた。本作への出演オファーには「驚いた。顔も似ていないし、身長も高すぎるからね」と振り返る。実際、マスッチ本人と対面すると、190センチを優に超える高身長。顔もヒトラーにはまったく似ていないが、撮影期間中は毎日2時間かけて、人工の鼻、口周りのしわや口ひげが特殊メイクで施されたという。
外見を近づける努力ももちろんだが、マスッチは「ドイツ人の俳優として、ヒトラーを演じることに当然、ちゅうちょがあった」と明かす。「それでも、右傾化する現代社会の危険性や、民主主義のもろさをあぶり出すという作品のコンセプトが、私の背中を押し、役作りの原動力になった。撮影を前に、約2週間ほぼホテルにこもりっきりで、ヒトラーの話し方を練習したよ。当時の映像や音声……そうそう、YouTubeを参考にすることも多かった。まさに21世紀ならではの役作りで、ヒトラーも驚くかもね」。
本作は、現代によみがえったヒトラーが、リストラされて起死回生を狙うテレビマンと一緒にドイツ国内を行脚するロードムービーのスタイルをとる。プロの俳優が演技するドラマパートに加えて、ヒトラーになりきったマスッチと街を行き交う一般人との交流をとらえたドキュメンタリーパートで構成されている。ドイツ国民にとって、ヒトラーはタブーの象徴であるはず。だが、カメラで撮影されていると知りながら、彼らの反応は意外なものだった。「拒絶する人ももちろんいたが、ヒトラーになりきった私を目の当たりにし、移民を敵対視するような発言をするドイツ人が予想以上に多くて、驚かされた。彼らは映画の撮影だとわかっている。にもかかわらず、顔出し出演を承諾し、本音をぶちまける。国内の知識層はこうした右傾化を楽観視しているが、とんでもない。ヒトラーは確かに怪物だったが、かつて彼を指導者に押し上げたのは民衆だ。それは現代も変わらないんだと痛感したよ」と神妙な面持ちで語った。
マスッチに、ネットを中心に“不謹慎狩り”が横行する日本の現状を伝えると「撮影中、ヒトラーの格好をした私を見て、ネオナチの連中が『よくそんな勇気があるね』って困惑していた。確かにヒトラーを笑いにするのは、リスクもある。でも表現の自由こそ、民主主義が勝ち取ったものじゃないか。議論もせず、不謹慎だとフタをしてしまったら、権力者の思うつぼだ。この作品がドイツで製作されたことも意義がある」と思いを語った。
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