ポルトガルの鬼才ペドロ・コスタ、社会の片隅に追いやられた人間を撮り続ける理由
2016年6月17日 14:30
[映画.com ニュース]山形国際ドキュメンタリー映画祭2015インターナショナル・コンペティション部門大賞受賞作で、「ヴァンダの部屋」「コロッサル・ユース」で知られるポルトガルの鬼才ペドロ・コスタ監督が、再びリスボンのスラム街を舞台に撮りあげた新作「ホース・マネー」が6月18日に公開される。
「コロッサル・ユース」のベントゥーラを続けて主演に起用。ベントゥーラのカーボべルデからの移民体験を基に、カーネーション革命やアフリカ諸国の独立といった近代史、ポルトガルのアフリカ移民の苦難の歴史と記憶を、虚実入り混じった美しく幻想的な映像で描き出す。
かつての旧植民地の小島に住む人々と出会ったことが、本作製作のきっかけとなった。「以前私は、カーボべルデで映画『溶岩の家』を撮影しました。そこで、村の人々が、たくさんのメッセージを私に託してくれました。その歴史は、文字に書かれていない神話のようなものが口述伝承でのみ残っているようなもので、彼らがとても小さな立場の人々だったことがわかったのです」
「私は歴史を学び、世界は王族と奴隷という関係の中で動いていて、歴史は王様とその他の物語に分かれることに気づいたのです。王様、女王様が幅を利かせる世の中で、私が考えるのは、本当の王様は彼らではなく、ベントゥーラのような人々なのではないか。この世界の地下に生きる彼らは、苦しみを自分たちで摘み取っていたり、建築物の土台を自ら作ったりしている。そういう本物の王族を私は美しく描き、大きな人間として伝えたいのです」と、スラムの住人やつらい労働に従事する移民ら、社会の片隅に追いやられた人を撮り続ける理由を明かす。
これまでの作品と比べ、画面構成やセリフは大きく異なり、ベントゥーラの記憶が、時系列を無視してパズルの様に組み合わされている。「映画作家としても、以前の仕事を模倣するのではなく、違うことをしたいと思いがあるのです」といい、こう続ける。「ドキュメンタリーのエッセンスは美しく重要なことであり、人々の現在の状況を映していくだけで済むのだろうかという疑問があります。シリアの難民や北アフリカの移民や東京のホームレス、あるいは私が毎晩苦しむ悪夢、こういう現実と重みは同じではないでしょうか。ベントゥーラたちの人生には意味があり、その経験を通して私たちに何かをもたらしてくれるのではないかと信じて映画を作っているのです。映画には大きなパワーがあるけれど、事実であるわけではない。映画という仕事は、実際あったことをより強化したり、効果的に伝える道具なのではないかと思っています」
小津安二郎を敬愛し、多大な影響を受けている。もし小津が生きていたら、何を聞きたいかたずねてみると「聞きたいことはないですね。私もシャイですし、彼もとてもシャイな人だと聞いていますので。沈黙を共有する瞬間があってもいいかもしれません」と結んだ。
「ホース・マネー」は6月18日からユーロスペースほか全国順次公開。
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