ピーター・チャン監督「最愛の子」で現代中国の問題を“映画”として昇華
2016年1月9日 07:30

[映画.com ニュース] 「ラヴソング」(1996)、「ウォーロード 男たちの誓い」(07)などで知られる香港のピーター・チャン監督最新作「最愛の子」が1月16日、シネスイッチ銀座ほか全国で順次公開される。第16回東京フィルメックスの開催に合わせて昨年11月に来日したチャン監督が、本作を撮った理由や中国での反響などについて語った。
作品は、中国で頻発する児童誘拐事件を題材に、親が子を思う「至上の愛」、子が親を慕う「無垢な愛」を描いたヒューマンミステリー。年間20万人もの子どもが行方不明になっていると言われる中国で、08年3月に誘拐された男の子が、3年後の11年2月に両親の元に帰ってきた実際の誘拐事件が基になっている。現代中国が抱える「拡大する経済格差」「一人っ子政策」などの問題を果敢にあぶり出し、見る者の良心を揺さぶる。
中国国内で公開されるや大ヒットを記録し、社会に反響を巻き起こして、誘拐された子どもを買う親も重罪とする刑法改正を実現させた。主演のビッキー・チャオが、第34回香港電影金像奨や第21回香港電影評論学会大賞など、最優秀主演女優賞を総なめにし、香港電影評論学会大賞では最優秀脚本賞(チャン・ジー)を受賞している。共演は、ホアン・ボー、トン・ダーウェイ、ハオ・レイ、チャン・イー、キティ・チャン。

これまでコメディやラブストーリー、アクション作品の傑作を手がけてきたチャン監督からすると、テーマ的に新しい挑戦だったと思われたが「今回は、私にとって初めての写実的な映画で、しかも中国社会の中のわりと下層の人たちを描いている。でも、監督としての思考を転換しようとか、自分自身に対して新しいチャレンジしようと思って選んだテーマではない」と前置きし、「この事件のドキュメンタリー番組を見て、事件そのものがまさに『映画』だと思った。その映像を見た時に非常に大きな力を感じ、登場人物や事件の展開が非常に感動的だった。その感動を、スクリーンを通して多くの人たちに伝えたいと思い映画化を決めた」と説明し、本作ではプロデューサーも務めている。
しかし、誘拐事件の闇を果敢に描く作品を中国で作るにあたって障害や制約はなかったのだろうか。「我々はあらかじめ中国政府が脚本を検閲するところに、脚本のない段階でタブーかどうか打診してみたところ、『原則としてはそういうテーマを扱ってはいけない』と言われたが、あくまでも脚本を見て判断すると。ならばと脚本執筆に取り掛かったところ、この事件がいろいろな社会問題とつながっていることに気づき、一時は映画化断念も頭をよぎった」という。
だが、「確かに非常に敏感な場面もあったが、意外にも審査は通った。その経験から思ったのは、我々映画人としては自粛してはいけないということ。撮りたいもの、描きたいものがあるのに、自分で事前に削除しては駄目。そのまま検閲を受けて、駄目だった場合、代わりのストーリーや展開を持っていくくらいの準備をしないと、中国では映画は作れない。自分に対して誠実であるべきだ」とした。
中国で興行的にヒットした理由は「もとの事件自体がある種の力を持っていたと思う。物語はいいわけだから、映画館にさえ入ってくれれば、見て好きになる。ただ、社会の下層の人たちは、同じ立場の人の悲劇は見たがらない。だから今回は、中国でも屈指のスターと、有名な演技派の俳優たちをキャスティングし、物語との組み合わせが出来たことで成功できたと思う。正直、私は映画化しただけで何もしていない」と謙そんした。
最後に日本の観客に向けて、「この映画を見て感動してもらいたいのはもちろん、中国の現状についても少し考えるようになってくれたら嬉しい。また、物事を考える時にはいろんな角度、つまり複眼的に、特に人生における人間の両面性を観察すると、いろんな発見がある。相手の立場に立って見えてくるものがあるということ。人間はもう少し思考回路を変えたり、立場を変えて思考することが重要。みんな自分が正しいと思っていると最後は武力で戦うしかない。でも、戦争は問題解決にはならない」と深いメッセージを送った。
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