実在の事件を題材にした「クロコダイル」に見るフィリピン南部の社会

2014年11月26日 20:30

(左から)R・S・フランシスコ、フランシス・セイビヤー・パション監督、 アンジェリ・バヤニ
(左から)R・S・フランシスコ、フランシス・セイビヤー・パション監督、 アンジェリ・バヤニ

[映画.com ニュース] フィリピン若手監督の登竜門・シネマラヤ映画祭で最優秀作品賞ほか4冠に輝いた「クロコダイル」が11月26日、東京・有楽町朝日ホールで開催中の第15回東京フィルメックス・コンペティション部門で上映され、フランシス・セイビヤー・パション監督、主演女優のアンジェリ・バヤニ、プロデューサーのR・S・フランシスコがティーチインに出席した。

フィリピン南部の南アグサンで実際に起こった事件を映画化。マノボ族に伝わる民話を織り交ぜ、ワニに娘を奪われ湿地帯をさまよう母親らの姿を通じて、土地に暮らす人々の生活と問題を浮き彫りにする。第66回カンヌ映画祭でカメラドール(新人監督賞)、第14回東京フィルメックスで観客賞を受賞した「イロイロ ぬくもりの記憶」(12月13日公開)のバヤニが、娘を失った現実に苦しむ母親を熱演している。

パション監督がマノボ族をテーマに選んだ理由は、撮影前に話を聞いた霊媒師から「3本目の映画(の舞台)は『アグサンという湿地帯』」と告げられたことだという。「リサーチに訪れ、事件が神話的物語といわれていることを知った。人間とワニが平和的に共存してきた歴史があったけれど、少女の死が動物と人間の間に亀裂を生んでしまった」。さらに、ワニを意味する原題「Bwaya」を、「この言葉は汚職役人を指す言葉でもある。事件のお母さんが子どもを亡くした時に役所が助けてくれなったことに対して、『ワニは地上にもいる』と言っていて、まさにこの映画だと思った」と語った。

劇中、地元で語られるワニにまつわる民話がナレーションとして挿入される。「民話は聖なるもので、外の人間に話すものではない」という認識があったことから、地元の老人たちはなかなか口を開いてくれなかったが、信頼関係を築くことでインタビューに応じてくれたという。パション監督は「地元の人々の創世詩、世界の始まりの物語には、ワニが登場している。老人の声を実際に録音して使ったのが、この映画のナレーションなんだ」と話した。

フィリピンはカトリックの国として知られるが、マノボ族には独特の信仰が根付いている。パション監督は、現地の宗教観を「この作品に出演しているプロの役者は3人だけで、あとは地元の人たち。マノボ族の面白いところは、カトリックと古い宗教をうまく混ぜて信仰していることにある」と説明。革命軍が潜む山中を越え、命がけの録音に成功した音楽についても「長老たちと一緒に暮らすことで、実際に神聖な音楽を録音させてもらうことができた。だから、音楽の中に哲学的なものが含まれている」と振り返った。

第15回東京フィルメックスは、有楽町朝日ホールほかで11月30日まで開催。

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