奥原浩志監督、北京で撮り上げた意欲作「黒四角」を経て得たもの
2014年5月16日 09:10

[映画.com ニュース] 尖閣諸島の領有権を巡り日中両国の対立が激化した2012年、奥原浩志監督は企画に賛同した日中のスタッフとキャストを中国に結集させ、北京を舞台にした異色ラブストーリー「黒四角」を撮り上げた。反日デモが吹き荒れる中、紆余曲折を経てついに映画を完成させた奥原監督は、「最初は無理だと思っていたけれど、やればできるもんだなと思った。大変なことはいっぱいあったけれど、やめてやろうとは一度も思わなかった」と迷いはなかった。
ある日、北京郊外の芸術家村に暮らす画家志望の青年チャオピン(チェン・シーシュウ)は、空に浮かぶ謎の黒い物体を追いかけたどり着いた荒野で、ひとりの謎の男(中泉英雄)と出くわす。その出会いは60年前の戦争の記憶へとつながり、ある日本兵と中国人兄妹の過去が明かされていく。
文化庁の研修を機に2008年から北京に暮らしていた奥原監督は、「せっかく行ったので映画を1本撮りたいと思っていた。だけど難しくてなかなか実現できずに2012年になってしまった」と振り返る。実在の芸術家村を舞台に選び、「芸術家村に暮らす知り合いの家に遊びに行ってるうちに、アーティストの友だちが増えて色々な刺激を受けた。そのうち一緒に面白いことできないかと考え始め、色々なものを詰め込んで『黒四角』の脚本が完成したんです」と経緯を語った。
釜山国際映画祭グランプリ「タイムレス・メロディ」、ロッテルダム国際映画祭・最優秀アジア映画賞「波」など、独特の空気感で人と人との関わりを描いてきた奥原監督は、「始めての土地で知り合いもいないし、言葉も分からなかった。主人公が突然わけの分からない世界に放り出されるという世界観は、自分自身がそういう環境に置かれていたからだと思います」と自身の実感を主人公に反映させた。

主演を務めた中泉は、中国映画「南京!南京!」に出演するなど中華圏での知名度が高く、中国語も流ちょうでまさに適役。「昔からよく一緒にお酒を飲む仲で、いつか一緒にやろうと話していたけどなかなか機会がなかった。だけどお互い中国と縁ができたので、これは一緒にやろうと決まった」と本作で念願のタッグを果たし、「最初はラブストーリーの要素はなかったんです。だけど主演に中泉君が決まったので、それに合わせて脚本も変えていった」と現在の形に至った。
中国では上映に際して検閲があり、本作はいまだ中国本土での公開を認められていない。しかし、ストーリー自体に偏見や日中のあつれきを感じさせるものはなく、「中国側のプロデューサーや役者の意見も取り入れ、中国の観客には絶対に受け入れられないだろうと不安要素は脚本の段階で削っていた。だけど、街の中を日本兵が銃を持って歩くシーン、“民衆を惑わすから”という理由で黒い四角から男が出てくるシーンなどはダメだと。表現という意味のメンタルにはゆるくなっているのかもしれないけれど、そういったデイテールにはとても敏感だった」と意外な実態に直面。プロデューサーによる編集で再び検閲に挑むそうだが、「(再編集は)自分ではやらないで、すべて中国のプロデューサーに任せている」と率直な心境を明かした。
今後のビジョンとしては、「アジアの中心地である北京で撮ったので、今度はマレーシアや台湾、辺境の地など、もっとアジアを幅広く撮ってみたい。この作品をやってみて、どこに行っても撮れるんじゃないかなという自信もできた」と意欲をのぞかせた。
「黒四角」は5月17日より公開。
(C)2012 Black Square Film Gootime Cultural Communication Co.,Ltd
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