菊地成孔&野崎歓、文学とジャズの側面から「うたかたの日々」語る
2013年9月25日 15:26

[映画.com ニュース] 1950年代に小説家やミュージシャンとして活躍したフランスのアーティスト、ボリス・ビアンの代表作を、ミシェル・ゴンドリー監督が映画化した「ムード・インディゴ うたかたの日々」の公開(10月5日)を記念し、原作の翻訳を手がけた仏文学者の野崎歓とジャズミュージシャンの菊地成孔が9月24日、東京大学でトークイベントを行った。
原作は邦題「うたかたの日々/日々の泡」として知られ、裕福で働かずにパリで自由に生きていたコランが、無垢な魂を持つクロエと恋に落ち結婚するが、ある日クロエが肺の中に睡蓮が芽吹くという奇妙な病に侵される。人生を変えてクロエを助けようとするコランの姿とふたりの運命を描いた物語。
ボリス・ビアンはトランペッターやジャズ批評家としても活動していたが、菊地氏は「音楽家としては高く評価されていないが、多くのことをやったことが評価されている。私個人が一番優れていたと思うのは、クラブカルチャーの人だということ」と話し、サン・ジェルマン・デ・プレをはじめとした戦後のパリの若者文化、クラブシーンを解説した。
光文社古典新訳文庫「うたかたの日々」として、日本で3度目となる翻訳を手がけた野崎氏は「自分が10代のときに読んで、今のティーンエイジャーに読んでほしいと思った作品。私がフランス文学に入門した頃、ロートレアモンやサドなどとんでもなく驚かされる作品がたくさんある中、一抹の悲しさ、美しさ、イノセンスなどほかの小説と違う印象が刻まれたのがなんと言っても『うたかたの日々』だった」と本作への思い入れを語った。
映像化不可能とも言われた原作を見事に映画化したゴンドリー版について菊地氏は、音楽面で「現代的なノイズリダクションによって1920~60年代の楽曲を同列に並べた無時代のデューク・エリントン映画になっている」と評すると同時に、「クロエが踊るパーティーシーンは夢のよう。ゴンドリー節ここにあり」とその映像センスを、野崎氏は「ニコラ役としてオマール・シーが加わったことで厚みがぐっと出た。ビアンも大賛成だったと思う。核心をついている」とキャスティングを絶賛した。
そのほかトークでは、ヒロインの病気のモチーフとして睡蓮を使った理由や、原作序文のニューオーリンズの記述についてなど、文学とジャズという野崎氏、菊地氏それぞれの専門知識に基づく、数々のボリス・ビアンに関する考察が述べられ、観客をうならせていた。
「ムード・インディゴ うたかたの日々」は10月5日から新宿バルト9、シネマライズほか全国で公開。
(C)Brio Films - Studiocanal - France 2 Cinema All rights reserved
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