絵本で町おこしの北海道剣淵町 大地康雄が映画「じんじん」で伝える親子の絆
2013年7月12日 13:29
大地が企画・脚本・製作総指揮・主演の1人4役を務めた「恋するトマト」の上映会を北海道で行った際に、知人に誘われて訪れた剣淵町で、町民が子どもたちに絵本を読み聞かせる姿に感銘を受け、自ら映画製作を企画した。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013では、観客が選ぶゆうばりファンタランド大賞と主演の大地が人物賞をW受賞するという快挙を遂げた。
剣淵町で読み聞かせに初めて立ち会った時のことをこう振り返る。「物語のクライマックスに近づくにつれ、子どもたちが吸い込まれるように読み手のお姉さんのところにはっていって、最後のオチで、全員がひっくりかえって大爆笑するんです。一方で悲しい話には涙している。びっくりしました」。そして、「これまで自分はそんな演技をしたことはなかった。そんな子どもたちの表情から、この国の明るい未来を見ました」と感激を言葉にする。
大地が剣淵で読み聞かせをしている母親たちに話を聞くと「思いやりのある子に育っている」、「感じたことや考えたことを言葉にできる」、「引っ込み思案だった子に読み聞かせを始めたら会話力がついて友達が増えた」、「想像力があり人の気持ちがわかる子」、「大人も童心に帰って、子どもと一緒に感動し、愛情が深まる」など、子どもへの良い影響が次々に挙げられ、子どもと大人の心の絆が深まることによって、優しい町づくりにも成功したという。
自分の子を殺める親、自殺やいじめなど悲惨なニュースが多い現代社会を憂い、「何か大事なものを失いつつあると思っていたんです。便利さや効率、経済も大事。でも、次の世代にもっと大事なものを大人は残さないといけない」と考えていた。「大切なことほど娯楽にしないといけないんです。映画は笑って、泣いて、感動ですから。娯楽作品こそがメッセージを伝えることができる」と本作企画の経緯を明かす。
ドラマ「刑事・鬼貫八郎」シリーズで長年タッグを組んだ山田大樹がメガホンをとり、ストーリーも同シリーズの脚本家の坂上かつえに託した。「坂上さんが剣淵から帰ってきて、3カ月で脚本が上がってきたものが親子の話だった。みんなが泣きました。完成度が高くて、役者になって初めてといっていいほど感動した」程のものだったという。
映画は、剣淵に住む幼なじみの農場を手伝いに来た気ままな大道芸人の銀三郎と、農業研修で同所を訪れた女子高生たちの交流を温かく描き出す。銀三郎にはひとり娘がいたが、娘が6歳の時に妻と別れて以来、会うことを許されずにいた……。大地演じる銀三郎は、人を笑わせることが生きがいで、子どもの様な天真爛漫さを持ち、美人に弱いバツ一中年男。「寅さん」の系譜につながる名キャラクターに仕上がっている。
良い企画があったとしても、実行までこぎつけるのは容易なことではない。思い入れの深い題材を見事映画化した、大地の原動力はどこから来るのだろうか。「長い間俳優をやってきて、いろんな人にお世話になり、支えられてここまで来た。ある程度いい年になってくると、このまま自分のところに来る仕事をこなすだけでいいのか、自分にできることをしていくべきではないかと考えるようになる。きざな言い方ですが、これまでの恩返しです。世の中のことを考えるようになると、自分の生き方も変わって楽しくなってくるんです。生きている実感が沸いてきます」と笑顔で語った。
映画「じんじん」は7月13日よりシネマート新宿、7月25日より有楽町スバル座ほか全国順次公開。
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