羽田澄子監督、アキコ・カンダさんの生きざまに敬意「貫き通した」
2013年5月31日 17:00
[映画.com ニュース] 2011年9月に75歳で他界した、日本のモダンダンス界の先駆者アキコ・カンダさんの晩年に迫ったドキュメンタリー「そしてAKIKOは… AKIKO あるダンサーの肖像」が6月1日に公開を迎える。日本の女性監督の第一人者ともいえる羽田澄子監督が、ダンスに生涯を捧げたアキコさんとの出会いや思い出を語ってくれた。
羽田監督とアキコさんの出会いは、約28年前にさかのぼる。「亡くなってしまった岩波ホールの高野悦子さんがアキコさんと日本女子大の同窓生で、『アキコさんを撮ってみないか』と提案してくれたのが始まり。最初は舞台を20~30分記録しておくという話で、モダンダンスなんてよく分からないまま夫でプロデューサーの工藤充と見に行って、2人ともすごく感動した。それで、『30分じゃとても収まらない!』と映画にしてしまったの」。その作品が、アキコさんの40代円熟期を記録し、文化庁芸術作品賞を受賞するなど高い評価を得た「AKIKO あるダンサーの肖像」(85)である。
それから25年が経った2010年、70代半ばを迎え肉体的な衰えに直面したアキコさんを、羽田監督は再びカメラで追うことになった。「その頃、私は『歌舞伎役者・片岡仁左衛門』という記録映画を作っていて、それを知ったアキコさんが『私の映画もまた撮ってね』って言ってきたの。仁左衛門は84歳から亡くなる90歳までを記録したから、『アキコさんが80歳になったら撮ってあげるわよ』なんて話したら、アキコさんが『その時お母さん(羽田監督)は90歳よ』と言って、みんなで大笑いしたのを覚えています」。
しかし、ほどなくしてアキコさんががんに侵されていることが発覚する。アキコさんは10年秋のリサイタル終了直後に入院し、退院後も治療を続けながらダンスを究め続けたが、11年9月にこの世を去った。「あんな風に病状が悪くなると思わなかったし、まさか亡くなるとは夢にも思わなかった。“年老いたダンサーがいかにしてダンスを続けるか”ということが撮れればいいと思っていたんです。亡くなった彼女をずっと見なくちゃいけない編集作業は、とってもつらくて大変だった」と心痛の面持ち。完成した映画は奔放で力強いアキコさんの姿を捉えており、「私はモダンダンスではなく、アキコさんに関心があったの。舞台とふだんの生活がびっくりするくらい違うけれど、彼女は両方とも素直に自分を表現しているの。一流の才能に加え、その正直さや飾り気なさが、周りの人々が彼女を受け入れて色々やってあげる理由。ダンスのことになると彼女は目標のためにまっしぐら。誰もができる生き方じゃないけど、彼女はそれを貫き通した。そういう意味で幸せな人ね」と故人を偲んだ。
羽田監督とアキコさんという、その分野における女性第一人者の運命的な出会いによって生まれた本作。2人からは不思議と共通点のようなものを感じるが、「私は映画を作る時にすべてを客観的に描いているわけじゃなく、私自身が感じたことを私の視点で表現している。それはアキコさんのダンスの表現に似ているかも。だけど私は自分のことを第一人者だなんて思ってこなかったし、たまたま映画しかできなくてやってきたようなもの」と笑った。
御年87歳を迎えた羽田監督だが、今後も精力的に映画製作を続けていく。「『安心して老いるために』(90)の撮影でも、人間が年をとるとはこういうことなのかと気づかされた。日本の高齢化社会で年をとりながらちゃんと生活すること。『嗚呼 満蒙開拓団』(09)など社会的なテーマの作品も撮ってきたけど、今は老いの問題に興味がある。どんな風に死ぬのか、年をとったら人間はどうなるのかってことがやっと分かってきた気がするの。そういうことが映画にできればいいかもしれないけど、それはとても難しい問題。社会問題ではなく、個人の物語としてそれが描ければ面白いと思っています」。
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