「屋敷女」J・モーリー監督、仏映画にダークファンタジーの風を吹き込む
2012年9月8日 08:00

[映画.com ニュース] 過激な描写が賛否両論を巻き起こしたスプラッターホラー「屋敷女」(2007)で、長編デビューを果たしたジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ監督。監督第2作「リヴィッド」では、前作から一転し、ダークファンタジーテイストのホラーに挑んだ。今作で、どのようなフレンチホラーの魅力を引き出そうとしたのか。フランス映画祭で来日したモーリー監督に話を聞いた。
ホラー映画では、好奇心から秘密に触れてしまった若者は、決まって恐ろしい体験をする。今作でも、かつて著名なバレエ教師だったが、現在は寝たきりの生活を送る老婦人ジュセルの屋敷に忍び込んだ少女リュシーらは、館に潜む者を眠りから呼び覚ましてしまい、惨劇の幕が開ける。
モーリー監督とバスティロ監督は、フランス映画界の“穴”を埋めるべく、今作に取り組んだ。「フランスではリアルなホラー映画はあるけれど、怪物や妖精のようなファンタジー要素のある作品がほとんど存在しない。そういうフランス映画の穴を埋めて、大好きなゴシック映画や1960~70年代にイギリスでヒットした(ブリティッシュホラーブームをけん引したハマー・フィルムズ・プロダクションによる)ハマー映画にオマージュを捧げるような作品をつくりたいと思ったんだ」
モーリー監督は、今作を通じて「フランスはファンタジー映画をつくる潜在的な力を秘めている」ことを、フランス国内で喚起し、世界に提示したいと意気込む。「フランスの各地方には、さまざまな信仰や迷信、その土地特有の怪物や妖怪がいる。でも、現代ではそういったルーツがどんどん忘れられていて、本当に残念だ。フランスに根付く摩訶(まか)不思議な神話を題材にすれば、たくさんのファンタジー映画をつくることができると思う」

「僕たちは、昔の信仰を忘れずに維持していきたいと願っている」と話すように、モーリー監督は地方特有の伝承を重んじている。今作の舞台は、フランスのなかでも異色の地として、ケルト文化が浸透しているブルターニュ地方を選んだ。「ブルターニュはとても美しく、フランスのなかでも民話や信仰が強く残っている地域なんだ。『理由はわからないけどやってはいけない』というような言い伝えが、今でも実践されている唯一の地方だね。映画のなかで『悪霊を引きつけてしまうから、夜に口笛を吹いてはいけない』というシーンがあるけれど、実際にブルターニュで言い伝えられていることなんだ」
今なお、古来の信仰が息づく地方を舞台にし、作品の主軸テーマは“吸血鬼”を選択した。ふたりが描く“吸血鬼”像は、現代でもてはやされているスマートなイメージとは180度異なる。「僕たちは吸血鬼神話が好きだけれど、『トワイライト』のようにロマンチックで格好いいと思わせるものではなく、あくまで呪われた古典的存在としての吸血鬼像を描きたかった。吸血鬼は怪物だけれど、同時に人間味もあり悲しくも呪われた存在であることを強調したいと思ったんだ」
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