「フード・インク」ロバート・ケナー監督が来日 安くて危ない食べ物の工業化に警鐘
2012年5月18日 17:25
[映画.com ニュース] アメリカの食品産業の実態を暴き、第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた「フード・インク」のロバート・ケナー監督が5月18日来日し、都内で会見した。昨年日本で公開され、国会で議員試写も行われるなど話題を呼んだ本作を「食品についてのみ語っている作品ではありません。食べ物の工業化、少数の多国籍企業が消費者をないがしろにしているということが大きなテーマです」と語った。
ひと握りの大企業が莫大な利益を得る一方で、設備投資のために借金を負わされ安い報酬にあえぐ下請け農家、汚染食品での死亡事故、遺伝子組換食品の問題など、農業や畜産業の巨大工業化が生み出した数々の弊害を映す。
「食卓に届く食料がどこからきて、どういう影響を与えているかを知りたいと思ったからです」と製作のきっかけを話し、「多くの人に話を聞きましたが、大企業の人も、農家の人も自分の作っているものについて話したがらないということがわかりました。(企業から)訴えられる可能性もあり、食品がこんなに危険なテーマだとは思いませんでした」と述懐する。
ファーストフードに代表される安い食べ物を生産するからくりのほか、おもに加工食品や添加物として利用されるトウモロコシと大豆の大規模農業と遺伝子組み換え作物、穀物種子が大企業に握られている実態を説明。まだ食卓には上っていないが、遺伝子組み換えは動物や魚でも行われており、アメリカでは2倍の速さで成長する遺伝子組み換えのサーモンが認可されたという。
「安い食べ物によってアメリカ人は病気にかかりやすくなっています。そのアメリカ式の食べ物が世界中に広がりつつあります。現在アメリカ国民の2/3以上が肥満で、2030年にはアメリカ人の40パーセントが糖尿病になると言われています。現在その治療のために、2000億ドルを使っています」とファーストフードや加工食品を日常的に食べることの弊害を明かした。
安価で健康によくない食品が流通するのは「目先の利益や技術のために予防原則が忘れられているからでは」といい、「日本の電力会社は原発付近の海で津波は起きないはずと言っていましたが、同じような自然のしっぺ返しが食べ物でも起こるのではないかと思っています。遺伝子組み換え作物はそうでない作物を汚染し、一度汚染されると、取り返しのつかないことになってしまいます。遺伝子組み換えの鮭が海に逃げたらどうなるのでしょうか」と問いかけた。
現在アメリカでも体制を変えていく兆しがみられているそうで、「成長ホルモン投与の肉やピンクスライム肉が禁止され、遺伝子組み換え食品の表示を求める100万人の署名が集まっています。消費者ひとりひとりの行動は小さいですが、新しい食品システムを作っていけるのでは」と締めくくった。
現在、日本ではTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加が話題となっているが、このほどケナー監督を招へいした、食農市民ネット共同代表の天笠啓祐氏は「TPPに参加したらどんなことが起きるかを示してくれるような映画。強いメッセージ性があって、自分たちが何をすればいいかを示している」と語った。
ケナー監督は19日から22日まで東京と大阪で行われる、食農市民ネット事務局主催の上映会で公演を行う。また、渋谷・アップリンクで6月1日開催の「IMAGINE After TPP映画祭」でも本作が上映される。