主人公が村の風力発電を夢見るキルギス映画 監督が日本にメッセージ
2011年9月30日 12:16
[映画.com ニュース] 天山山脈のふもと、遊牧民の暮らしが残るキルギスののどかな村で、主人公の男が家々に電線と電球を取り付けていく。風車で村の電力をまかなうことを夢見る、ひとりの男の姿を描いた「明りを灯す人」が10月8日に公開する。1991年のソ連崩壊に伴い誕生したキルギス共和国の独立宣言から20年、9年ぶりの新作を発表したアクタン・アリム・クバト監督が作品について語った。
98年にロシア名のアクタン・アブディカリコフとしてメガホンをとった、同国初の長編映画「あの娘と自転車に乗って」が高く評価されたが、本作はキルギス名のアクタン・アリム・クバトとして発表した。改名は政治的な理由ではなく、生みの親と育ての親への個人的な気持ちからだという。
「私が名前を変えた理由は、独立後にキルギス名へ戻した多くの人たちとは違いました。アリムは産みの父から、クバトは育ての父からとりました。アブディカリコフはしばしば、ソビエト時代の痕跡を思わせるロシア名ととられますが、とりわけ私は何かを両親に贈らなければと感じていました。アクタンは白や輝き、アリムは歩みや動き、クバトは力を意味しています。そこから、私の名前を詩的に訳すなら、“光り輝く力強き歩み”となります」
昔ながらの生活習慣が残るキルギスの田舎町を舞台に、政治に翻ろうされながらもつつましく生きる人々の姿を描いた同作の主人公は、スベタケ(明り屋さんの意)と呼ばれる、純朴な人柄の電気工。「明り屋さんのモデルは様々な要素の集合体ですが、その世界観は私のものです。自身に近いキャラクターとして演じたかったのです」といい、俳優にも初挑戦し、主演を務めた。
紺碧の空に透き通った川、緑の地平線……明り屋さんが住む村はまるで絵画のように美しい。民族的な帽子、騎馬競技、移動式住居など、キルギスの伝統的な生活様式が数多く映されているのも興味深い。
「我々の伝統や慣例を出していこうという思いはありませんでした。純粋に私の周りにあるものを出しただけです。キルギスでは、様々な人種が混ざっていることもあり、イスラムやその他異教にルーツを持つ異なる伝統や慣例に深く繋がりがあります。旧ソ連時代からのロシアの伝統もあります。私は慣例を主張するつもりも、画一主義的なキルギス文化を作り上げるつもりもありません。単純に私が村落の出身で、私の知る世界だったからです。農村部の人々はより伝統を重んじる傾向にあるのです」
風車を作って村中の電力をまかないたいという明り屋さんの夢、質素ながらも自然と共に穏やかに生きる村人たちの姿が印象的だ。東日本大震災の津波による原発事故を経験した日本にとって、本作から考えさせられることは少なくないだろう。地理的にも、文化的にも遠い日本の観客に伝えたいことを聞いた。
「私たちは偉大なものや強大なものが近くにありながら、しばしばそれらを見ようとしません。人は自身を見つめ、見つけることにより、更にグローバルな物事について考えられるのです。私はいつも自分の経験や行動、考えを通して世界を見ようと思っています。それ故、ほとんどの私の作品は自伝的要素を備えているのです。人は夢を持ち、人々に光を与えなくてはならない。メッセージというような堅苦しい言葉は苦手ですが、本質を注意深く見つめることが大事であり、そうすることによって意義も明確になると思います」
「明りを灯す人」は10月8日からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。なお公開を記念し、10月5日に東京理科大学(東京都新宿区)で実演付き公開エコエネルギー授業を開催、現在参加者を募集している。交通費各自負担、参加料無料。応募方法詳細は作品公式HPに記載(http://www.bitters.co.jp/akari/)。