劇場公開日 2024年6月21日

「ヒミツのカンケイは、ヒミツのままに。撫子お姉ちゃんの百合百合でミステリアスな日常!」大室家 dear friends じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ヒミツのカンケイは、ヒミツのままに。撫子お姉ちゃんの百合百合でミステリアスな日常!

2024年6月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

なんだ、後編でもお姉ちゃんの「アレ」って明らかにならないのかよ!
けっこうびっくりしたわ(笑)。

前編『大室家 dear sisters』は、2月に視聴済み。
『ゆるゆり』はTV放送時にリアルタイム視聴済み。
原作は『大室家』に関しては未読。

この数週間、仕事が忙しすぎて土曜も日曜もなく働いていたが、日曜の朝1時間くらい、アニメを観ても罰は当たらないだろうと、久々に映画館に自転車で行ってきた。

いっときは深夜のテレビで「きららアニメ」が全盛だった時代もあったが、最近は飽きられてしまったんだか、とんと少なくなってしまった。
同じ女の子がワキャワキャするアニメでも、今期は『ユーフォ』とか『ガルクラ』とか『夜クラ』とか、やたらギスってるバンドものばっかりで、久々に「ほんわか」する時間を過ごせて、仕事に疲れた身としても本当に良かった!

作品のテイストとか方向性については、前編で書いた通りで、
●「線画としての美少女」を「とにかく可愛く動かす」ことに全集中した、最近珍しいくらいの「手描き作画」アニメとして、完成度が高くて素晴らしい。
●龍輪直征監督の継承した「シャフト」の遺伝子が、「百合系の美少女日常アニメ」にうまく接ぎ木され、適度にクセのある演出がなされていて素晴らしい。
●なもり原作の、「女の子どうしの若干ストレスフルなやり取りをちゃんと描きながら、最後は笑いに昇華して終わる」テイストを再現していて素晴らしい。
●ベテランの声優陣の安定感のある演技が素晴らしい。
以上の四点は、後編の本作でも変わることなく、十分に面白かった。

副題に『dear friends』とあるとおり、前作が「姉妹」の関係性中心だったとすると、今作はその周辺の友人関係が中心。といいつつ、三女の花子関連はほぼ前作でやり尽くしたようで、もっぱら長女・撫子と同級生の仲良し4人組、次女・櫻子と親友・ひまわりの関係性に重きを置いたつくりになっている。

今回とくに感心したのは、「立ち位置」や「顔の距離」の「近さ」で、「百合要素」を巧みに演出していたこと。
とにかく、いちいち友人との距離感が、身体的に近い(笑)。
立ったときに、常に相手のパーソナルスペース(対人距離)に踏み込んでいる。
しゃべるときの顔の位置がやたら接近している。
そして、ボディータッチや髪を触るといった、「ふつうなら友達どうしでも気兼ねする」行動をバンバンとることで、距離感を平気で詰めて来る。

きららっぽい日常系4コマ原作のフォーマットにのっかりつつ、キャラクターどうしの近づけ方と演出で、これが「コミック百合姫」関連原作であることを、しっかり強調してくる。

だから、ふつうのきらら系と比べると、作品のテイストが濃密で、生っぽく、いささかいかがわしい。
でも、ぎりぎりのラインはきちんと守っている。
毒気の無い、気楽な美少女アニメとしての安心感は担保されている。
そのあたりのセンスというか、バランス感覚が実に良い。

それにしても、前編でほのめかされたまま宙ぶらりんで後編に持ち越された重大な要素が、後編でも解決されないどころか、宙ぶらりんのまま終わってしまったのにはびっくりした。これって、もしかして原作でもまだ解決がついていない伏せネタなんだ??

いいように作り手に翻弄されている感じもあるけど(現状、誰でも良いようにわざと複数のフックが仕掛けてあるし、明らかに「ミステリー仕立て」を意識して趣向を凝らしてある)、お相手がわからないまま終わるのも、これはこれで謎めいていて、後味としては意外に悪くない。
「いったい誰なのか」を視聴者が考えながら、何度も本編を観直したり、ああでもないこうでもないと推理したり出来るように作ってあるってことなんだろうね。

それとも、ネックレスやキーホルダーといった重要なアイテムが一瞬映るとか、何か俺が見逃してる「ヒント」となる演出でも作中であったりしたのかな??

●本作のメイン・ヒロインは撫子。クーデレというか、冷静沈着なお姉さんキャラに見えて、水面下で焦ったり、落ち込んだり、喜んだりしている感情が「つい行動にあふれちゃう」あたりが萌えポイントか。斎藤千和は、『化物語』のひたぎにせよ、『まど★マギ』のほむらにせよ、その手の「クールに見えて一番内側では情熱的なのを隠している」役を器用にこなす声優さんだ。

●友人のクラスメイト三人組は、微妙に三人とも「撫子にときめいてる」らしいのが実に百合っぽくて良い。逆に撫子が三人全員とそういう関係性を築いてしまっているからこそ、一歩進んだ二人の特別な関係性は「どうしても秘密にしなければならない」んだろうな。

●それにしても、三人のうちの一人とは毎晩電話でラブラブトークしながら、クラスではそれをヒミツにして、ああやって全員を天秤にかけるみたいにふるまってるのって、かなり高度な「プレイ」だよなあ(笑)。撫子、あんまり浮かれて自分の魔性に酔ってると、そのうち痛い目見るよ。

●お互いの影響関係や親密さを表わす重要なキーアイテムとして、「髪を触る」「髪をいじる」「髪型を変える」「ヘアアクセを買う」といった「髪」が全編でクローズアップされてたのが印象的。まあ、髪は女の命だからね。命を触らせるのは、相手に心を開いてるってこと。

●今回、さくひま(櫻子×ひまわり)は間が悪くて会えない描写が多い分、相手がいないときのがっかり感が相互にすごく出ていて尊かった。

●櫻子、人の携帯勝手に見たりしてたら、いつか殺されるぞ(笑)。きっと、パスワードは撫子の誕生日じゃなくて、撫子のお相手の誕生日なのでは?

●三女・花子は、前作に比べると出番が限られるが、表情の変化やしぐさが可愛すぎる!! スタッフに愛され過ぎ。でも、みさきちとうまくいってるいってないの話って深掘りする前に終わっちゃったね。

●雪だるまの演出はうまい締めでした。

総じて、「値段の割に短すぎる」以外は、ほとんど不満のなかった前後編。
このまま終わってしまうのは、実に勿体ない。
ぜひ、OAVでもなんでも、続編を作ってくれるとありがたいです。
あ、別に『ゆるゆり』の番外編でもいいっすよ。

じゃい