劇場公開日 2024年7月12日

「義母を探して三千里」大いなる不在 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5義母を探して三千里

2024年7月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

両親の離婚で疎遠になっていた父親(藤竜也)が認知症に起因して事件を起こし、数十年ぶりに父親と関わることになった息子(森山未來)のお話でした。森山未來演じる息子・卓が、初っ端癖の強い空気感を醸し出しており、序盤は今一つ感情移入できませんでした。しかしながら話が進むうちに、認知症になってしまった父親と義母(原日出子)の馴れ初めから義母が失踪するに至るまでの軌跡に触れたことから心境に変化が生じ、卓に人間的な成長が感じられたのが心に刺さりました。

特に父親が、自分と母親を捨てて義母と一緒になった経緯から、義母に対して心にわだかまりがあってしかるべきところ、彼女の日記を読むことで父親と彼女の運命的な関係性を知るに至り、最終的には日記を返そうと失踪した義母を探して歩き回る卓の姿は、さながら”義母を探して三千里”というところでした。

総括してみると、学者バカともいうべき父親と、父親に献身的に尽くした義母はもちろん、義母の前夫との間の息子や、義母の妹など、卓に対して当然の帰結として敵対的な態度を取ることになる人に至るまで、登場人物のいずれもが悪人ではないところが本作の最大のポイントだったように思えました。それが父親の認知症をきっかけに微妙な均衡が崩れてしまったことが、病気ゆえに致し方ないとは言え、なんとも悲しいお話になっており、翻って我がことのように切なく感じられました。

出演陣は、何と言っても森山未來と藤竜也の2人が素晴らしかった。森山未來は、序盤はとっつきにくい雰囲気を醸し出していましたが、徐々に柔らかい感情を表わすことで、当方も感情移入していきました。そして藤竜也は、矍鑠とした大学教授の演技と、認知症発症後の呆けた感じの演技のコントラストが絶妙でした。まだ元気だった頃のシーンと、認知症が酷くなってしまった現在のシーンを交互に出すことで、この対照的な演技が際立っていたと思います。あと、義母役の原日出子の悲しげな表情も実に印象的でした。

そんな訳で、本作の評価は★4.5とします。

鶏