「引き合う孤独が織りなす物語」星つなぎのエリオ alfredさんの映画レビュー(感想・評価)
引き合う孤独が織りなす物語
「万有引力とは 引き合う孤独の力である」(「20億光年の孤独」から)
谷川俊太郎さんの著名な詩にあるように、孤独は引き合うのだ。両親を亡くし叔母さんに引き取られたエリオにとって、言葉にはしないが、自分が叔母さんのキャリア(宇宙飛行士の夢)の妨げになっているという意識がある。
ぼくを連れてってというエリオのメッセージが宇宙人に届き、彼は地球のリーダーという勘違いではるか宇宙の彼方コミュニバース(いろんな生命体がいる多様性の象徴)に招かれる。
彼はそこでやはり孤独なグロードンと知り合うのだが・・・。
スピルバーグのSF映画でも孤独な少年が度々登場していたが(スピルバーグ自身の子供時代を反映している)、そのような孤独な少年のもとに宇宙人は必ず来る。宇宙人も宇宙のなかで一人ぼっちだったのだ。そうして孤独と孤独が引き合い、出会いが生まれる。
映画でボイジャー1号の名が登場し、冒頭で宇宙人に捕獲されているが、ボイジャー1号は実在し、昭和世代の私には熱いものがある。
ボイジャー1号は1977年に宇宙に向けて放れた。そこには地球上のあらゆる言語の挨拶や音楽等を収録したゴールデンレコード(これも映画で言及される)が搭載され、やがて未知なる知的生命体に届くとされた。太陽圏をすでに脱出し、現在も宇宙空間を飛行しているという。
なお、ゴールデンレコードの音声収録部分は「VOYAGER GOLDEN RECORD」というタイトルで発売され、配信もされている。
ボイジャーは今も孤独に宇宙空間を漂っているが、それが捕獲という形で宇宙人と遭遇し、さらにそのことが孤独な少年エリオとの出会いにつながる。やはり孤独は強い万有引力を持っていたということだ。
私たちに必要なのは政治家ではなく、詩人だと思う時がある。政治家は半径1メートルのことしか考えられないが、詩人は宇宙の果てに思いを馳せることができるからだ。
エリオは孤独ゆえに宇宙の果てを想像出来た。孤独とは否定するものではなく、なにかを始めるスタート地点ではなかろうか。
映画の序盤でトーキング・ヘッズの「once in a lifetime」が流れる。もうこれだけでこの映画を予感できる。
カーラジオから流れる音楽、主人公が部屋でかけるレコード、それらの音楽の良さでその映画の出来が予想出来るというのが私なりの映画経験だ。既成曲の選びかたにセンスの良し悪しが出るのだ。
音楽センスのない映画監督にまともなやつはいないとまで断言していい。
本作では既成曲は殆どない(2曲のみ?)ので、トーキング・ヘッズの採用は意図的だろう。制作陣の年齢からすると、トーキング・ヘッズの解散以後に成長した世代だと思うので、後追い世代だろうか。
ちなみにトーキング・ヘッズのドキュメンタリー映画「ストップ・メイキング・センス」(1984年作 2024年に4K版再公開 配信視聴可)は音楽映画の大傑作と言ってよい。必見なり。監督のジョナサン・デミが後に「羊たちの沈黙」「フィラデルフィア」のような大作名作を撮ることになるとは、初公開時に観た者としては予想もしなかった。