僕の中に咲く花火のレビュー・感想・評価
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#清水友翔 監督『 #僕の中に咲く花火』 亡くなった母のことを忘...
「不器用ですから」という言い訳は通用しない
孤立していると感じた時、父には選択肢(逃げ場というべきか)があったが妹には…父がやっとまともに息子と対話できるようになるための代償が何と大きかったことか。馬鹿は(誰かが)死ななきゃ治らないのである。
不器用すぎて家族を顧みてなさそうな父の態度に反発しながら、そういう自分は妹を守れたのか?深夜散歩では気をつけろと言っただけで先に帰るし、線香花火では話は聞いてやったが最後は登校しろとプレッシャーかけるしで、本当に追い詰めたのは無関心にみえる父ではなく自分だったのではないか?と稔が感じても不思議ではない。もっと言葉を尽くしていれば、妹からもっと言葉を引き出してやれば…つまり、どんなに強く相手を思っていてもそれを言葉にしなければ伝わらない、ということ。あのトンネルシーンで、半裸の朱里が「寒い」と言ってから稔が服を掛けにいくのは象徴的かもしれない。
高校生喫煙とか無免許運転とか空き地の焚き火とかの揚げ足取りはしないてあげてね。
若者の感情の機微が秀逸な映画
懐かしさと、衝撃と、刺激を貰った映画
家族のシーンが忘れられないです。特に食事のシーンと、主人公の稔が父親と一緒に車に乗るシーン。というのは、10代の自分がそこにいたから。稔とは全然違う家庭環境、家族構成だけど、誰もが経験しているだろう、10代の頃の家族のほろ苦い関係がリアルに描写されていました。気がついたら自分と重ねて観ていたり、一気に物語が近い存在になっていました。
舞台挨拶で拝見した監督は、柔和な印象の方でした。だから、あんなに鋭い描写で、キレのある、時間が止まったかのような映像や、映画の中に散りばめられた沢山の挑戦シーンや展開に挑まれたことに衝撃と刺激を貰って帰ってきました。自分の考えていること、思っていることを素直に、真っ直ぐに伝える。今の世の中だからこそ、その伝えるがすごく難しい時があります。そこに挑戦したのが、この作品だと思います。大切にしていくべき映画だと思いました。
低空花火
小学校の頃に母親を亡くした少年が高校生になり、忘れられない母親への思いと今の家族の空気に悩む話。
小学生の頃の教室に先生と父親がやって来て…と始まって、18歳になった主人公が、母親の亡くなった廃病院に侵入し巻き起こっていく。
婆ちゃんと、不登校の妹と、父親と暮らしているけれど、父親は家に居着かず毎日接待と宣うけれど、今どきそんなに接待がある会社って…と思っていたら、なるほどそういうことですか。
家庭環境が違うし受け止め方も異なるものの、小学生になった頃から母親がいない自分にも主人公の機微は違和感がなくてなかなかですね。
最初は拗らせている感じかと思ったら、情けないのは親父の方で、気風の良い里帰り姐さんに救われつつのほんのちょっとの回り道という感じかな。
花火、きれいだったか?
少年の心に火を灯す再生物語
■ 作品情報
監督:清水友翔。主要キャスト:安部伊織、葵うたの、角心菜、渡辺哲、加藤雅也。脚本:清水友翔。プロデューサー:落合賢。
■ ストーリー
岐阜県の田舎町を舞台に、小学生の頃に母親を亡くした少年、大倉稔のひと夏を描く。稔は、家庭を顧みない父と、不登校の妹との関係に悩み、亡き母への思いから死後の世界に興味を抱く。彼は霊媒師との出会いから死に興味をもち、ドラッグや無免許運転といった非行に走り、孤独を深めていく。そんな中、東京から帰省した年上の女性、朱里と出会い、彼女との交流を通して心境に変化が訪れる。しかし、不幸な事件が稔の目の前で起こり、死への好奇心は恐怖へと変わる。さまざまな経験、特に妹の死を契機に、稔は周囲の人々との関わりを通して、自らの内面と向き合い、過去の確執や寂しさを乗り越え、もう一度前を向いて生きる意味を見出していく。
■ 感想
舞台となる岐阜の隣県・愛知も地元扱いなのか、先行公開されていたので、この機に鑑賞してきました。全体的には重苦しい印象ではありますが、岐阜ののどかな田園風景が静かに広がる中、一人の少年の繊細な心の機微が丁寧に描き出された作品だと感じます。
主人公の稔が抱える喪失感と孤独は、スクリーンを通してひしひしと伝わってきます。亡き母を忘れられず、死への好奇心から非行に走るものの、それが彼の本当の居場所ではないことは明白です。そんな稔が、朱里との出会いや、おでん屋のおやじの言葉、そして何よりも妹の死という大きな出来事を通して、少しずつ自分自身を見つめ直します。
妹はどこにも居場所がなく、誰にも心を開けず、亡き母のあとを追ったのかもしれません。その詳細が描かれないのは、ひょっとしたら稔が妹の苦しい心情にそこまで関心を示していなかったことを示唆しているのかもしれません。しかし、そんな妹の死は、稔が自分自身を省みる大きなきっかけになります。妹と自分の関係を、自分と父との関係に重ね、自分が父に抱く怒りもまた、自身が心を閉ざし、孤独だと思い込んでいたことに起因していたと気づいたのではないでしょうか。そんな稔が父との関係を修復していく姿が印象的です。
そして、これまでの一つ一つの小さな経験が、稔の心の奥底に静かに折り重なり、ゆっくりと変化へと導いていく。その描写が非常に丁寧で、彼の再生がまさに「僕の中に咲く花火」のように、内側から静かに、しかし力強く灯っていくのを感じます。
一方で、周囲の人物の描き込みは不足しており、その心情を掴みかねる部分があります。特に、稔に近い位置にいる父、妹、朱里については、もうすこし掘り下げてもよかったのではないかと思います。ただ、ひょっとしたらこれは意図的で、周囲の思いを受け付けない、稔の閉ざされた視点を強調していたのかもしれません。
こんな感じで、寂しさに立ち止まり、過去を振り返ることしかできなかった少年が、人との温かい触れ合いを通して、もう一度顔を上げて前を向くことを知る。そんな静かな再生の物語として、心に静かに余韻を残す作品でした。
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