「少年の心に火を灯す再生物語」僕の中に咲く花火 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
少年の心に火を灯す再生物語
■ 作品情報
監督:清水友翔。主要キャスト:安部伊織、葵うたの、角心菜、渡辺哲、加藤雅也。脚本:清水友翔。プロデューサー:落合賢。
■ ストーリー
岐阜県の田舎町を舞台に、小学生の頃に母親を亡くした少年、大倉稔のひと夏を描く。稔は、家庭を顧みない父と、不登校の妹との関係に悩み、亡き母への思いから死後の世界に興味を抱く。彼は霊媒師との出会いから死に興味をもち、ドラッグや無免許運転といった非行に走り、孤独を深めていく。そんな中、東京から帰省した年上の女性、朱里と出会い、彼女との交流を通して心境に変化が訪れる。しかし、不幸な事件が稔の目の前で起こり、死への好奇心は恐怖へと変わる。さまざまな経験、特に妹の死を契機に、稔は周囲の人々との関わりを通して、自らの内面と向き合い、過去の確執や寂しさを乗り越え、もう一度前を向いて生きる意味を見出していく。
■ 感想
舞台となる岐阜の隣県・愛知も地元扱いなのか、先行公開されていたので、この機に鑑賞してきました。全体的には重苦しい印象ではありますが、岐阜ののどかな田園風景が静かに広がる中、一人の少年の繊細な心の機微が丁寧に描き出された作品だと感じます。
主人公の稔が抱える喪失感と孤独は、スクリーンを通してひしひしと伝わってきます。亡き母を忘れられず、死への好奇心から非行に走るものの、それが彼の本当の居場所ではないことは明白です。そんな稔が、朱里との出会いや、おでん屋のおやじの言葉、そして何よりも妹の死という大きな出来事を通して、少しずつ自分自身を見つめ直します。
妹はどこにも居場所がなく、誰にも心を開けず、亡き母のあとを追ったのかもしれません。その詳細が描かれないのは、ひょっとしたら稔が妹の苦しい心情にそこまで関心を示していなかったことを示唆しているのかもしれません。しかし、そんな妹の死は、稔が自分自身を省みる大きなきっかけになります。妹と自分の関係を、自分と父との関係に重ね、自分が父に抱く怒りもまた、自身が心を閉ざし、孤独だと思い込んでいたことに起因していたと気づいたのではないでしょうか。そんな稔が父との関係を修復していく姿が印象的です。
そして、これまでの一つ一つの小さな経験が、稔の心の奥底に静かに折り重なり、ゆっくりと変化へと導いていく。その描写が非常に丁寧で、彼の再生がまさに「僕の中に咲く花火」のように、内側から静かに、しかし力強く灯っていくのを感じます。
一方で、周囲の人物の描き込みは不足しており、その心情を掴みかねる部分があります。特に、稔に近い位置にいる父、妹、朱里については、もうすこし掘り下げてもよかったのではないかと思います。ただ、ひょっとしたらこれは意図的で、周囲の思いを受け付けない、稔の閉ざされた視点を強調していたのかもしれません。
こんな感じで、寂しさに立ち止まり、過去を振り返ることしかできなかった少年が、人との温かい触れ合いを通して、もう一度顔を上げて前を向くことを知る。そんな静かな再生の物語として、心に静かに余韻を残す作品でした。
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