「面白ホラー設定×心理スリラー」TALK TO ME トーク・トゥ・ミー Lymanさんの映画レビュー(感想・評価)
面白ホラー設定×心理スリラー
呪いの(面白)アイテムで手軽に降霊術をキメられる90秒憑依チャレンジ!
仲間内で楽しくガンギマリするだけの筈が、案の定やべーの降ろしちゃって大変な事になるお話。
序盤3分こそ、このプロット通りワーキャー楽しめるホラーですが、途中からはホラーを土台にしたヒューマンドラマ、心理スリラーへと変貌します。
幽霊パニックを期待すると大きく肩透かしを食らい、更に物語の芯は主人公が堕ちていく陰鬱系なので、そこが刺さらない人には徹底的に刺さらない所以だと思います。
個人的にはストーリーや設定、主人公の演技力がよく、程よく抉られて楽しめました
特に秀逸だと感じたのは設定の妙と、それらが交錯した時に起きる事件への動線ですね。
①憑依チャレンジ
誰でも簡単に憑依体験でき、しかも本人は薬のようにキメられるお楽しみアイテム「手」。但し、どの幽霊が降りるかは分からず(恐らく周辺から?)、90秒以上続けると危険らしい
②主人公ミア
仲の良かった母を睡眠薬による自殺で失い、普段は気丈でも心の底では「助けられなかった自責感」「なぜ自殺したのか、そもそも自殺だと信じたくない気持ち」に苦しみ続けている
そして親友の弟(中学生?)が憑依チャレンジでミアの母を降ろしてしまった事で、①と②が最悪な形で交わり本編が始まります。
ミアは母の真意をどうしても知りたかったのでしょうね…。次があるかも分からないこの機会を失いたくなくて、90秒経とうが儀式を強行。
到底許容はできませんが、その気持ちは痛い程共感できます
直後のミアの演技も見事でした。取り返しのつかない事をした罪悪感と、抱えていた闇を払えるかもしれない希望が同居する複雑な表情。ガンギマリ時の狂演も良かったですが、こういう心情表現もできるのかと素直に感心
以下【ネタバレ】含む感想
そこからはどんどんミアが降霊術に取り憑かれていくので、見ていて辛かったですね…。
なぜミアだけ儀式外でも幽霊が見えるようになったのかは、恐らく初体験時に既に90秒超えしていたからでしょう。しかも弟をロックオンしたヤバめの悪霊。
数日後のパーティでも何度も憑依した事で、(元彼の言う通り)心や記憶を読まれたのだと思います
なので、そもそもあれは母の霊ではないと思います。母の自殺の真相を探るミステリー路線へのミスリードで、終盤に父が見せた遺書が真実でしょう。
「自殺じゃなかったのよ。今でも愛してる。あの子(弟)を救って」など、ミアが聞きたかった言葉だけを伝えて巧妙にコントロールし、邪魔者排除と本命の獲物(弟)を狙わせる様は完全に悪魔。
ここでも母の死に悩むミアの心情が活きています。辛い…
そして思わずおおっと思ったのが、序盤に出てきた瀕死カンガルーのフラグ回収。
ミアは車に轢かれた瀕死のカンガルーを楽にしてあげる事ができませんでした。
これがラスト、結局弟を“苦しみから救う(=殺す)”事ができなかった理由ですね。
父を襲ったのは(彼女にとっては)本能的な正当防衛であり、本来は自ら他者の命を直接奪う事ができない性格なのです。
結果、寸前で我に返り弟を庇った事で自らが死に、今度は自分が降霊される側になるという素晴らしい終幕。
(途中トンズラした諸悪の根源2人組がラストの「する側」にしれっと紛れてたら、SNS社会への皮肉が効いててもっと良かったのに。笑)
総括
主人公が悪にコロコロされる陰鬱系は本来苦手なんですが、とにかく設定が最後まで活き続けるシナリオには終始感心できて最後まで楽しめました。
私がよく観るB級ホラーでは、時間かけて紹介したキャラ設定をド忘れしたり、メインテーマが行方不明になったりする作品なんてざらにあるのですが(それはそれで楽しんでますw)、今作は最後まで「呪いの手」「母の死」「ミアのキャラ設定」がブレずに物語を牽引しているので好感しかないですね
ただ、視覚的なホラー・グロ描写は一部ある程度で後半はほぼなし(☆‐1)と絵面はおとなしめ。
降霊パニックでキメたかった層には、やはり物足りないと思われるのは致し方ないでしょう…
でも、物悲しくも納得感のある悲劇が好きな人にはぜひオススメしたい。そんな映画でした