劇場公開日 2024年1月5日

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「短歌集のような映画」彼方のうた あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5短歌集のような映画

2024年1月29日
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鑑賞方法:映画館

「うた」とは何を指すのか。英文タイトルが「Following the Sound」と置かれているので直接的には、はるが追い求めている川の音を指しているのだろう。繰り返し出るラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」も意識されているのかもしれない。でもこの監督が強く意識しているのはおそらくは定型詩文学としての短歌、うた。
今回、本作を観て、短歌集のような映画だと感じた。短歌集では百首とか二百首の短歌が収録される。共通のテーマがあることも多いが、基本、一つ一つの歌は独立していちいちその歌の世界を言い切っている。この映画は構造的にそこが良く似ている。つまりシーンあるいはシークエンス個々の独立性が高く、基本的には会話劇なのだが、主人公たちはシーン毎に意思を示したり感情を吐露している。ある意味、シーン一つ一つが完結しているわけだ。ただ一つのシーンだけで全ての背景が説明できるわけではないので観る人によっては説明不足とか意味不明とか感じてしまうのだろう。その意味で無駄なシーンは一つもない。そしてこの監督の極めて優れたところは時系列を一切崩していないところにある。季節は秋から冬、そして春に向かって流れ、シーンとシーンは端正に重なり合いシンクロしながら進行しやがておおよその背景理解と共感が観客側にも生まれていく。
最後の雪子とはるが言葉を交わし抱き合うところが感動的なのはそういった設計思想があるからだと思う。
短歌とのつながりを示す根拠を一つ。枡野浩一の作だが、おそらくタイトルをつけるときに意識されたのではと思う。
「またいつかはるかかなたですれちがうだれかの歌を僕が歌った」

あんちゃん
sow_miyaさんのコメント
2024年2月3日

> 短歌集のような映画

この指摘がとても胸に落ちました。

sow_miya