「嘘っぽくてダメだった…。」市子 Donguriさんの映画レビュー(感想・評価)
嘘っぽくてダメだった…。
蒸発癖のある女の物語かなと思って観ていました。
冒頭、女性の白骨死体の事件でニュースになっていた生駒山の麓で生まれ育った僕は、まさに実家での暮らしを思い巡らせながらこの作品を眺めていた。
(そういえば、行方不明になる女いたなぁ……)
と、恋愛して幸せそうになると、その幸せに耐えきれず夜逃げする女。
僕の母親の親友にそんな雰囲気のした女性がいた。彼女もその傾向が強く、よく家に来ていては母に恋愛の相談をしていた。その女性の情緒不安定さと似ているなぁと思い返す。
ちなみに僕の中学時代の初恋の女の子も、卒業したあとに失踪していた。噂では男と駆け落ちしたとか、バイト先のお金を盗んで逃走とか、いろいろ言われていたが……真相はいまだに不明である。
そういう失踪ばかりする女の話かと興味を持って観ることにした。
しかし見ているうちに、どうやら戸籍がなさそうというのが判明。
密入国? 移民?
そっち方面のダークな話になるのかと身を乗り出した。
さらに、どうやら人を殺していそう……。
いろいろハードな過去が揃ってきたところで、嘘くささが増してきた。
市子が都合よく生き抜けているのだ。
そんな簡単じゃないだろう。
一文無しで逃げられるわけがない。きっとホームレスに陥ってしまうだろう。たいがいドラマだと、そこでお節介な人間が出てきて、普通の暮らしに戻れちゃうんだけど……世の中、そんなにお節介な人とは簡単に出会わないよ。出会ってもコミュ障だと無視されるだけ。
だからこそ、そこをどう主人公は乗り切って、助けてもらえるようになるのか。
ここに現実感があると面白くなるのですよ。
リアリティを積み重ねていって、はじめて人は市子を実在している人のように受け止めて感情移入できるのだ。
有吉佐和子著の「悪女について」もこの映画と同じように、ひとりの女性の生き様について、いろんな人間が証言していくスタイルの小説だったが、悪女と呼ばれる主人公と証言者たちとの出会いや触れ合いのエピソードの数々にリアリティがあったので、徐々に主人公の謎めいた女性への興味は増し、感情移入の高まりもおぼえた快作だった。
僕としては、市子はコミュ障だけど、何とか人に助けて貰おう、寄生しようと消極的ながらアプローチしていく。だけどそれを気味悪がって逃げていく人もいる。そんな中で市子の張った蜘蛛の巣みたいな罠に引っかかって、お節介で市子を助ける人も出てくる。だけどお節介が過ぎて、それが苦痛になると市子は逃げ出す。それでもお節介な人間が追いかけてきて、市子を連れ戻そうとする。そこに支配される恐怖を感じて、その助けてくれた人を殺してしまうとか。
助けてくれる人を次々に乗り換えていく、ヤドカリのような生活……その助けてくれる人の捕まえ方、その人に感謝していたはずなのに反動で残酷になるサイコパス的な猟奇性と二面性。また市子を犯人として追っている警察の網からの逃れ方。そういうサスペンスを見たかった。
全体的に踏み込みが甘くて、物足りなさがあり、市子の凄味が弱く感じられた。
別に自分に恋した男たちを次々に殺していく話でもいいけど……現代のメルヘンみたいにね。
というわけで……何となく今回の映画は、観客である僕がほとんど傍観者のようにポカーンと最後まで眺めてしまい、登場人物の誰にも感情移入できなかったのが残念な出来映えでありました……。