劇場公開日 2023年12月8日

「市子のアイデンティティー」市子 R41さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0市子のアイデンティティー

2024年3月9日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

難しい

この作品は、主人公のアイデンティティと素直な自己表現を、映画を通して人々に問いかけている。「あなたは彼女の生き方に何を感じた?」
市子のあの黒い服は、心の闇を表現しているのではなく、裁判官と同じく「私は何者にも染まらない」という決心の現れなのではないだろうか。決心したとき着る服なのだ。
汗が滴り落ちる暑い夏が、年代問わずに同じように背景にある。朦朧とする思考…
市子の鼻歌は、月子の人工呼吸器を止めたとき、無意識に母のした鼻歌だった。
限界からの開放… 「ありがとね」思いもしなかった母の言葉
無戸籍だから小学校にもいけない市子と戸籍はあるけど筋ジストロフィーで寝たきりの父親が違う妹月子。
そして3歳遅れで「月子」の戸籍を利用して入学したのは、母の知恵だったのだろう。
この物語は細部や結末まで描かれていない。そして、この物語がどこへ向かうのかも描かれていない。視聴者が自分で感じて考えるのだ。
私は月子ではなく市子だ。これが彼女の心の叫びとなり変化のきっかけとなる。
多くは、どうしようもなくなって、そうしていわゆる「犯罪」は起きるのだろう。
そのある種の狂気を暑い汗の滴る暑い夏に乗せている。
母は2度目の離婚で、生計のためにスナックで働く。離婚が、幸せな日々を奪ったのだろう。長谷川が見せた家族写真を奪い、胸に押しつけて涙する母のシーンは、振り返ってみればあの時が一番幸せだったことを伝えている。
どれだけ振り返っても返ってこない過去。母が感じている犯してしまった数々の失敗と隠し通したい犯罪。彼女の思いは至極一般的で、だから徳島の小さな島に移住したのだろう。罪悪感と後悔が彼女を包みこんでいる。
でも市子という人間は彼女とは違った。市子は勇敢で積極的で恐ろしく狡猾だ。北に対し「何を思ってもいい」というシーンがあるが、これこそが市子の心の声だ。だから私の思ったとおりに生きてゆく、のだろう。
市子は貧困で無戸籍であるにも関わらず、彼女を放ってはおけなくさせるオーラが、彼女の人生の時々で友人となって現れるが、北のように窮地を救うものが今度は市子を困らせる役となる。
そして婚約者の長谷川もまた、北と同じように彼女を追いかけることでこの物語が紡ぎ出されていく。
市子の母が長谷川の乗るフェリーに深々と頭を下げるのは、「娘をよろしくお願いします」という意味だろう。それが彼女の清楚な服装に現れている。
長谷川は、刑事からの電話に出なかったように、今後も出ないだろう。
市子という人間の過去を知り、その人生に同情と共感で泣いたところで、本当の彼女を知ることはできない。彼女は常にその先へと動いているからだ。
長谷川は、どこかで北の事故死を知るだろう。その時彼は初めて市子という人物を知ることになると思う。
彼女にとって一番いいのが、母が言ったように追いかけないことになる。
そうして長谷川は彼女をリリースすることができて初めてこの問題に決着できると思われるが、盲目になってしまえば…
この作品は、人が犯す犯罪というものの視点ではなく、どうにもならない運命でもなく、社会や法律や恋人よりも「私」という存在が一番上にあるのだということを見る人に伝えたかったのかなと思った。
犯罪とかではないが、市子のように常に自分が一番上に立った物の考え方は、私は正しいと思う。

R41
しろくろぱんださんのコメント
2024年4月7日

フォローありがとうございます。
…市子は
とても難しい作品でした。
深いメッセージまではわかりませんでしたが“生きる“ことに対する意思の強さを感じました。
様々な感じ方がありますね。
参考になります。
三度目の殺人はモヤモヤしたところがありましたがとても参考になりました。
コメントありがとうございます。

しろくろぱんだ