「カッコよく見えたんだけどね」フェラーリ 町谷東光さんの映画レビュー(感想・評価)
カッコよく見えたんだけどね
映画館で予告編を見ると、どんな映画でもいい作品に見える。
その本編をすべて見たとして、見てよかったと思えるのがどれだけあるか。
予告編を見て、こんなの見ないよ…と思いながら、解説記事を読んで思い直し、見て良かったのが、前にもレビューで高評価をつけた「ディア・ファミリー」だ。
本作「フェラーリ」もまったく描く世界は違うが、実在の人物についての実話を基にし、映画館で見た予告編がカッコよかった。フェラーリにもカーレースにもほとんど興味はないのだが、予告編に釣られる感じで見に行った…。
ハリウッド製の映画なので、当然全編がイタリアなまりの英語。それは当然だし、許容範囲。
フェラーリについての基本知識などはほぼない。イタリアの高級スポーツカー・メーカーということしか知らなかった。
てっきり、イタリア貴族の流れを組むような金持ちが道楽で始めたスポーツカー・メーカーで、その人物を描く内容、と思っていた。
大事故を起こすカーレース、妻との関係、経営危機、自身の子を亡くし外に家庭を作った男…とう描写があちこちにあり、フェラーリという人物を描く大河ドラマにしたかったのはわかる。
大事故をはさんでそれがうまく描かれたかどうか。観客の気持ちを揺さぶる内容であったか。
この点は、あれもこれも描こうとするために食い足りない。
主人公と妻(ペネロペ・クルス)のとってつけたようなセックスシーンもほとんど意味がない。中途半端。
大事故や夫婦関係などの危機をどう乗り越えたか―についてまで描くならまだしも、最後にそれを字幕で説明して終わりなのである。
作品全体に深みはない。車の疾走シーンなどは見るべきものはあるかもしれないが。
予告編はカッコよかったが、よほどのフェラーリ好きでもない限り、見るほどではない、と思う。
封切り翌日、都内下町のシネコンの入りは、3分の1くらい。まあ、それが映画ファンの評価だろう。