「心の庭に咲くバラは…」フェラーリ ストレンジラヴさんの映画レビュー(感想・評価)
心の庭に咲くバラは…
「死と背中合わせの情熱だ。そして恐るべき喜びだよ」
スポーツカーの歴史に名を遺し、モータースポーツ界の盟主として君臨する"跳ね馬"フェラーリ社の創業者エンツォ・フェラーリと彼の家族の物語。「スターウォーズ」新三部作のアダム・ドライヴァーが特殊メイクで59歳(1957年当時)のエンツォを演じる。監督は「ヒート」のマイケル・マン。
元レーサーのエンツォは1947年にフェラーリ社を設立し、妻ラウラ(演:ペネロペ・クルス)と共同経営していた。しかしエンツォには戦時中から交際していたリナ(演:シャイリーン・ウッドリー)という浮気相手がおり、彼女との間にピエロという隠し子をもうけていた。1956年、実子ディーノが病気のため24歳で急逝したことを機にエンツォとラウラの間は冷え込み、離婚も秒読み状態になる。1957年、ライバルであるマセラーティ社が当時イタリア最大の自動車レースであるミッレミリア優勝に向け気炎をあげるなか、エンツォは闘志と裏腹に自社のマシンの不安定なパフォーマンスにより契約ドライバーを次々と失う。時を同じくして、スペインからアルフォンソ・デ・ポルターゴ(演:ガブリエル・レオーネ)がドライバーとして売り込みに来る。
僕はF1のスクーデリア・フェラーリのファンだ。一時期ほどではないが、現在でも「ティフォシ」の端くれくらいの矜持はまだ持ち合わせている。映画史において、フェラーリは常に敵として描かれてきた。「グラン・プリ」(1966)然り「フォードvs.フェラーリ」(2019)然りである。打ち負かされる跳ね馬など観たくもないから僕は常にこれらの作品を拒絶してきた。今般、そんなフェラーリが珍しく主役として描かれるということでやや期待値高めに観ることにした。
率直に言って、少し思っていたのとは違うかなという印象。これが観終わって1日、1週間と経つとどう気持ちが変化するかはまだ分からないが、ジワジワと描いた感はある。そして華やかなロッソ・コルサの車体とは裏腹に作品のトーンは終始暗い。特にラウラ役のペネロペの暗さは凄まじい。暗黒面の象徴とも言うべきアダム・ドライヴァーを前にしてここまで暗くなれるのかというくらいに暗い。レーシングの映画なのだから、もう少し吹っ切れた描き方をしてもよかったのではないかと思った。まとまりがいいとも言えるが、個人的にはどっちつかずな感じが否めなかった。
それでも、1957年ミッレミリアのシーンは大迫力。当時の自動車も数多く登場し、環境に配慮した現在ではもはや拝めなくなったモーターサウンドをじっくり堪能できる。剥き出しの車体に不十分なヘルメット、当時のドライバーが如何に死と隣り合わせだったかが窺える(これが後々ショッキングな展開をもたらすのだが…)。
気持ち、もう少し重厚感(基本英語でやりとりしている違和感など)が欲しかったが、サウンドが聴けたから良しとしよう。