劇場公開日 2024年5月3日

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「「だから難民など認定しちゃいけないんだ」と言う政治家にこそ観て欲しい」人間の境界 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)

「だから難民など認定しちゃいけないんだ」と言う政治家にこそ観て欲しい

2024年8月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 これはキツい映画だったぁ。こんな事態がある事は海外ニュースで聞きかじってはいましたが、こんな凄まじい現実を生きている人々が居るとは思いもしませんでした。また、自国でのこの出来事を「映画にして世界に届けなくては」の監督の思いが溢れていました。

 プーチン・べったりのベラルーシのルカシェンコ大統領は、シリア・アフガンなどからの難民を大量に集めて隣国ポーランドに押し付け、EUを混乱させようと企図します。いわゆる、「人間の銃弾」作戦です。一方、ポーランド政府は野放図な難民流入を阻止すべく国境警備隊を配備して難民を力づくで押し返します。本作は、「ベラルーシを経由してポーランド国境を渡れば、安全にヨーロッパに入ることができる」という情報を信じて祖国を脱出したシリア人家族が、両国国境間でキャッチボールの様に弄ばれる姿を描いたドラマです。

 両国の警備隊員は国境の鉄条網を破壊して難民を力づくで相手側に押し出せば任務完了です。難民らはその間、食料にも水にも事欠き翻弄されます。何とかスマホの電池を持たせて、援助者の手を借りてポーランド国内に潜り込むことが唯一の助かる道です。寒さやひもじさで亡くなる人も次々と出て来ます。しかし、警備隊員はその死体を相手国側に投げ入れるだけ。この警備員たちも、自分の心のスイッチの幾つかを off にして任務に従事するしかありません。

 その厳しい現実がドキュメンタリーの様に淡々とモノクロ映像で描かれます。観る者の臓腑を抉る生々しさ。

 「日本は地続きの国境がなくてよかったな」と胸を撫でおろしていて良いのでしょうか。政治家は、「だから難民など認定しちゃいけないんだ」と嘯くのでしょうか。難民申請者を収容所に長期勾留し見殺しにしているこの国は「緩慢なベラルーシ」とは言えないでしょうか。

La Strada